編集長かく戦へり その4 ~一体誰が得しているのか~
これまでの戦いぶりはこちら
ああ、更新が遅くなってしまいました。なんだろう、この週刊連載の圧迫感は。
だいたいもう一ヶ月も前のことなんだよなあ。時間がたつのは早いよねえと思いつつも、薄れゆく記憶を焼き付けるべく私は書くのです。遅くなってごめんなさい。でも、人生にはblogよりも大切なことがままあるのです。
で、「森見登美彦の文庫最新作」を探しに本屋さんに駆け込んだ結果、どうやらそれは「夜は短し歩けよ乙女」である模様。なんだろうと本屋さんで眺め回してみるものの、あんまりぴんと来ず。あらすじのところに知恩寺の古本市のことが書いてあって、これのことかなあ、古本市ってGW中にあったんだっけ?などと考えつつ、まあ念のため購入して車に戻る。
まさこちゃんが喰らいつくように「分かりましたか?」と聞いてくるも、こちら分かっていないのでうむむとうなる。
「まあ、あらすじに知恩寺の古本市が載ってたからこれかなあ。一応ネットで調べてみよう」といってノートパソコンを手に取るとまさこちゃんがそれをさえぎって「加藤さん、違います」ときっぱり言う。なんだ違うのか。じゃあなんだろう。ぱらぱらと本をめくってみるが京都の地名いっぱいでてくるやんこれわからへん。
うーん。こんなときはこれまでに得た情報を整理するのだ、と思った矢先にまさこちゃんがいう。
「加藤さん、ほら、LとかPとかの数字があったじゃないですか!」
「ああ、うんあったね」
さっきから得た情報で、Lは12、Pは11という情報を得ています。しかしそれがなんなのかさっぱりわからない。
「ほら、加藤さん。Lといえば、もうほら、あるじゃないですか、編集とかで記号ですよ」
「えーー。おれ編集の仕事してるけどLなんか使わへんよ。
「使いますよ。学校とかでも、ほら、Pはページでしょ」
「君今答え言っちゃったやん」
「ええ、まあいいんですよ」
「まあとにかく12ページと」
しかしそこにもたくさんの地名が出ている。わからん。
「Lですよ、加藤さん。L」
「もうなんかエルエルうるさいよ。あ、Lって行か」そういえば、一行目、二行目の変わりに1l、2lって書いた気がする。学生時代出版社で校正のバイトをしていた時に使ったことがあるなあ。
てなわけで、夜は短し歩けよ乙女の12ページの11行目を見てみると、阪急河原町駅の木屋町出口が出てくる。
「おお!ここか!」
「はい!そうです!」とまさこちゃん。元気に答えてくれます。大変素敵なお嬢さんです。
で、車でひた走るわれわれ二人。しかし、場所が繁華街なので駐車がしにくい。
「悪いけど、まさこちゃん車で待っててくれる?」
「いいですよ、場所わかりますか?」
「わかるよ。阪急河原町駅の木屋町出口やろ?」
「違います。」きっぱり。
「えっ?」
「地下です。改札のところです」
「え?そんなこと書いてなかったやん」
「書いてなくてもそうなんです。とにかく急いでください。待ってますから」
「わかった!じゃあ行ってくる」と言い捨てて走り出す私。これは一体なんなのだ。ヒントが確かに街に多数隠されてはいるが、謎を解いてみると隣の女性がどんどん正誤判定をしてくれる。確かに利便性に富んではいるが、空間を使った推理ゲームとしてはこれは不適切な案内人ではないのだろうか。まさに喋りすぎのティンカーベルだよ、まさこちゃん。いや!否!否!違う。これは、前半で時間を使いすぎた俺がいけないのだ。そこでのロスを取り戻すために神が(ゲームマスターが)送ってくださった天使なのだ。
そんなことを思いながら、地下を駆けるおれ。
改札口にスタッフを見つけて駆け寄る。
「おお!塩崎!次のヒントくれ!」
「違います!僕は加藤さんが見つける様子を写真に撮る係です」
「なんやねんその係!必要なんか!?」
「必要です。探してくださいこの辺を」
「わかった」なんか涙が出そうになる。彼は俺がここに謎を探しに来る様子を写真に撮るための男なのだ。謎についてすべて知っていて、彼がここにいることがすなわちここが正解である証なのに、どこに答えがあるかは教えてくれないのだ。一人だ、ああ俺は結局一人なんだなあ、
「加藤さんこっちです!」
「え?」
「こっちのほうです。車路駐してるんでしょ?」
ああ、塩崎。やはりお前はわかってる。俺の孤独を知っていたのか。ありがとう。ありがとう。
彼がいざなってくれた方向にはポスターがあり、まさに改札口があり。しかし、一体何が、どんなヒントが隠されているのかよく分からない。うろうろする。塩崎の方をチラッと見ると「そうそう、そのあたりですよ」という雰囲気の目の輝きだ。
しばらく探していると違和感を感じた。
「あった!」
駅に設置されている伝言板。あの黒板の奴。一日経った伝言は消します、のやつ。あれに「加藤さんへ、某デパート8Fで待ってます」と書かれている。
おおお。あの某デパートか。わかった。今すぐ行くぜみんな!
一瞬ではあったが魂の交流を果たした塩崎に別れを告げ、指示されたデパートへむかうおれ。
車の中では退屈そうにティンカーベルが待っていた。
「ありましたか?」
「あった。某デパートや。」
「じゃ行きましょう!行きましょう!」なんかやけにうれしそうにティンカーがいう。金色の粉が零れ落ちているようだぜ。
某デパートに到着したわれわれはまずエレベーターを探して8階に向かう。
まさこちゃんは隣でもじもじしながら携帯電話をいじっている。どこかへ連絡しているようだ。
エレベーターが8階に着くとやけに弾んだ声でまさこちゃんが言った「やー楽しみですねえ」。
いったい何が楽しみなのか。8階のどこにスタッフがいるのか。次のヒントはなんなのか。
しばらくその階をうろうろするがなにもない。一通りみたけどもぬけの殻だ。もぬけの殻っていういいかたもおかしいけど。
まさこちゃんはなぜかのんびりと「まあゆっくり探しましょうよ」とか言ってて、挙句の果てに「のどが渇いたからジュースが飲みたい」とか言い出す始末。
私はずいぶんとそわそわしていたのだけど、まあ、ある意味天使なティンカーがのど乾いたって言うんだからまあ仕方ない。
しぶしぶ、自動販売機の横で待つ。
そのとき、信じられないことが起こった。
「左京区からお越しの加藤隆生さま。加藤隆生さま。一階受付カウンターにてサカイダニさまがお待ちです」
館内放送か!!!!
これは予想していなかった。
隣で笑い転げているまさこちゃん。
おい!これ笑い事なのか?確かにすげえけど。
とにかく、一階に急いで向かう。
エレベーターに乗るとなんか鼓動が早くなった。これはまったく予想できなかったぜ。
受付カウンターにいくと、いぶかしげな顔をしたデパガたちがこっちを見ている。
なんだ、なぜみんなこっちを見るのだ、と思っていると突然黒い影が飛び出してきて「加藤さん!」と呼び止められる。
虚を突かれた俺は激しく動揺して「は?え?」とか間抜けな声を出すと、妙にアジア人なまりのイントネーションで妙な男が話しかけてくる。「加藤さん、会いたかった。会いたかったよ。お久しぶりです。ああ、加藤さん会いたかった!」
よく見ると一昨年までSCRAPのスタッフをしてくれていたカメラマンのスズッキーだった。お前鳥取かどっかで薬屋さんやってるんじゃなかったっけ?
「いやー加藤さん会えて嬉しいです。」
やけに演技過剰だなあと思ったが、後ろでいぶかしげに見ているデパガたちを見てわかった。こいつ俺を呼びだしてもらったから、ここで感動の再会を演出しないと怪しまれると思ってるな。
しかし、もうここでどれほど演技をしても、この怪しさはぬぐいがたく俺たち二人に染み付いているだろう。デパガたちの視線が凍るように冷たかった。
そして、なぜお前は、妙にアジア人なまりなのか。
「加藤さん、これ次のヒントです」
といって、妙なパズルをまた渡される。
ああ、ありがとう。と適当にいって、その場を去ろうとするがなぜかスズッキーが行く手を阻む。
一刻も早くデパガの視線から消えたかったので、スズッキーの横をすり抜けて進むとその後ろに、SCRAPスタッフが更に二人カメラを構えて隠れていた。「ああ、みつかっちゃった。私たちは写真係です」
なんだろう、この空虚な感じは。
この壮大さはある種の空虚をこの世に現じせしめている。
この大掛かりな仕掛けは、いったい誰を幸せにしているのか。いったい誰が得をしているのか。
しかし、目の前で「てへへへ」って感じで笑っているSCRAPスタッフ達はやけに楽しそうで、特になにも悩んでいる様子はない。
俺は、編集長として、株式会社SCRAPの社長としてなにか大切なことを教えてあげたいような気になったが、その大切なことが何なのかよくわからず、ただ口を閉ざした。
そしてその場を逃げるように去ったのであった。
次回予告
そしていよいよ物語を大詰めを迎える。
クライマックスに用意された驚愕のシナリオとは。
この壮大なハリボテ船はさまざまな人に迷惑をかけ、困惑させ、苦笑いさせながら進んでいく。
その真ん中で編集長は何を思うのか?
次回「編集長かく戦へり その5 ~どこまでいってもどこまでも~」
ご期待ください!
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