編集長かく戦へり その5

 これまでの戦いっぷりはこちら

 デパートで呼び出されたあとさまざまな思いを抱えつつ、手渡された数字パズルを解く。
 極端に難しいわけでもなく、簡単なわけでもないパズルだったけど、そのパズルが解けた後数字を代入する枠が郵便番号だった。
 郵便番号?
 僕が京都で郵便番号だけで場所が特定できるところは二つしかない。
 ひとつはSCRAP事務所で、もう一つは自分の家だ。
 逆算して、まずは事務所の数字を念頭において解いてみる。違う。数字が合わない。
 ということは、と恐る恐る計算してみると、もっさりとおれんちの郵便番号が出てきた。
 まじか。とうとうあいつら俺の家にまで手を伸ばしたのか。
 もはやええいままよ、という気持ちでエンジンをかけ加藤家を目指す俺。
 まさこちゃんは隣でなんだか楽しそうである。

「いやあ、デパートの呼び出しすごかったですねえ」
「たしかにすごかったな、誰のアイデア?」
「わたしは知らないんですけどね。」
「思いついても普通はやらんよな」
「そうですねえ。でも、”花柄シャツをきた加藤さんを呼び出してください”って頼んだけど、それは無理やったって嘆いてましたよ。みんな」
「あの人らも仕事で一生懸命やってはるんやから、邪魔してあげるなよ」
「そうですねえ」
 とかなんかそんな会話。

 さて、家に到着。
 家の外をいろいろと物色していると、中から母親が登場。
「やっと来たん?」
「えっ?」
「時間かかったな」
 えーーーー?!お前もグルか!
「うん。なんか藤田さんっていう人から連絡があって、協力してほしいっていう話になってん」
 おいおい。生みの親まで巻き込んでたのか。ママも向こう側の人間だったのか。34年間も信じてきたのに。

 家の外の郵便受けに最後のヒントが隠されていた。
 これまでのカードをすべてつなげると地図になり、そこにデパートでもらった穴空きのアイテムを合わせると次の場所がわかる。
 なかなかうまくできている。
 いや、うまくできすぎている。
 これはすでにドッキリ企画とかそういうものではなくて、本当にどこかの愉快な誘拐団がサカイダニをさらって、僕を遠くで見て嘲笑っているのではないだろうか、という気にすらなる。

 出がけに母親が「なんかほんとは家のトイレの天井にそのヒントを張り付けるっていう話やったんやけど、時間が合わなくてできひんかってん」といってカラカラと笑った。確かにトイレに貼ってあったらすげえ衝撃だろうなあと思いつつ、それについてはなるべく深く考えないようにしてその場を後にした。

 次の場所は町中の聞きなれない名前のマンション。
 しかし場所にはなんとなく覚えがあった。
 これはSCRAPスタッフであらせられるところのはったさんのマンションだ。
 とにかく全体的な状況把握能力とか、情報収集能力とか、分析力とかそういう種類の能力が著しく下がっていたので、あまりなにも考えずにはったさんのマンションを目指した。
 この物語はいつまで続くのだろう、この悪夢はいつまで・・・とひとりごちてみると隣からまさこちゃんが「次で最後ですよ」と天真爛漫に笑った。なーんだ。次で最後か。心配して損しちゃった。えへへ。

 さて、はったさんのマンションに到着。
 部屋のチャイムを押すも返事がない。
 恐る恐るドアノブに手をかけると鍵は開いていた。
 そーっとドアを開けると、そこにはガムテープでぐるぐる巻きにされたサカイダニがいた!
 ほんとうにガムテープでぐるぐるまきだったのだ。
 マンガみたいに。
 ドラマみたいに。

 僕はサカイダニを助け出したという達成感よりも「良くやったぞお前たち!」という謎の気持ちが込み上げてきてなんかぐっときた。
 「サカイダニ!」といって中に入ると、10名ほどのSCRAPスタッフが部屋に隠れており、わらわらと出てきた。
「もーおそいですよー」とか「○○さんは加藤家に撮影に行ってます」とか不思議な言葉をかけられながら、僕のサカイダニ救出作戦は終わった。
 サカイダニはとくに僕になにも言ってはくれなかったが、目が「ありがとう」と言っていた。たぶん。

 この企画を総括すると、ある個人をテレビなどの巨大メディアを使わずに物語の中に引き込もうとした史上最大の作戦だったのではないかと思う。
 SCRAPがこれまでお客さんに対してやってきたことの10倍くらい個人的な驚きをたたきつけられた。そのことの意味はとても重い。なぜなら僕らは「まるで物語の中に入ってしまったかのようなイベント」を作りたいと常々言っているし、SCRAPのスタッフが結託して編集長にこの夢のようなイベントを提供してくれたのだと思うと、心の深い部分が震えるほどうれしいことだ。
 しいて問題点を挙げれば、まったくテストプレイがなされておらず、トラブルに対する対処方法も事前に検討されてはいなかった。あとは、事前にある程度行動規範が想定されていたのならば、移動手段を限定してしまってもよかったのではないか。ゲームとはいかにしてプレイヤーの行動の自由を奪いながら、自由という錯覚をあたえるかが命題だ。今回に関しては僕に行動の自由を与えすぎて、やや熱量が拡散してしまったようにも思った。

 しかし、いったいこの世界中のだれが、ただゴールデンウィークが暇な編集長の為にデパートで放送を流してくれたり、得意先にネタを仕込んだり、生みの親に連絡を取ってくれたりするだろうか。このドッキリにかかわってくれた人の数は10人を超える。そんなすげえことないだろ、ふつう。 
 なんと幸せな場所で僕は仕事をしているんだろうとも思った。
 サカイダニを助けた後で、全員が「さあ編集長われわれをほめて下さい!」という顔をするので、ことさらそっけなく「うん、まあ面白かったよ」などと言ってしまったことが唯一の後悔事だ。

 SCRAPはだいたいこんなふうに遊んでいる。
 というよりも、正確に言うとだいたいこんなふうに遊びを探している。
 今の僕らの行動がどんな遊びにつながっていくかを常に考えている。
 変な会社で、変な人が集まっていて、変なことばかりやっているけれど、ものすごく一生懸命変なことをやっている。
 このドッキリだって、10人以上の人間がそれぞれ15時間以上費やしてるんだ。でもそれが面白いことにつながるとみんな知っている。

 改めていうけれど、この企画にかかわったすべてのスタッフに心からありがとう。
 それから、なぜかイベントから二か月近くもたってやっと終わるこのテキストを読んでくれているあなたにもありがとう。
 僕はとても幸せな編集長です。
 
 そしてみな、心を合わせてこう思っていてほしいと思う。
 「じゃあ次は何をしようか?」と。

 常になんか面白いことをしていきましょう。

 SCRAPのスタッフに参加してみたい方はこちらまでメールをくださいませ。
 staff@scrapmagazine.com

 やっと長い長い感想テキストが終わりました。
 僕はかく戦いました。

 次からは毎週月曜日にもう少しさらっとしたテキストを書きます。
 ああ、しんどかった。

 SCRAP 加藤隆生

 

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