春といえば、花粉。
書きながらそんなことを思った、超S級花粉症の私。
さて、今週の間取りSS(ショートストーリー)です。
room07 春が来たら

おじいちゃんが死んだ。つい数時間前のことだ。今朝はあんなに元気そうだったのに、学校から帰ってくるともうこの世からいなくなっていた。さっきからお父さんとお母さんはあわただしく電話をかけている。わたしはその喧騒をBGMに、お風呂場の前の壁にもたれて、小さな小さな庭を眺めている。
もともと、おじいちゃんはもっと遠いところに住んでいた。お父さんが生まれ育ったその家には、大きな桜の木があった。でも、何年か前に倒れてから体が不自 由になり、わたしたちが住むこの古い中古住宅に引っ越してきた。ひとり部屋がなくなったお兄ちゃんはぶちぶち文句を言っていたけれど。おじいちゃんが大好 きだったわたしは、とてもうれしかった
わたしの家の中には小さな庭がある。わたしがいま眺めている庭だ。なかなか外に出られないおじいちゃんのために、日曜大工が趣味の父が作ったものだ。敷き 詰められた砂利の上に、小さな獅子威しと一年中花を咲かしているレプリカの桜の木がちょこんと存在している。おじいちゃんは車いすに座りながら人工的なの にどこかあたたかいこの庭を、まぶたが垂れ下がった目で眺めていた。毎日、まいにち。わたしも学校からかえってくると、横に座っておやつを食べた。
「なあ、さくら、今日はなにか楽しいことがあったかい?」
それがおじいちゃんとわたしの会話の最初だった。わたしは、その日の授業や友達のこと、片思いしているクラスメイトのことを話した。おじいちゃんはこく、こく、とあいずちを打ちながら聞いていた。すべて話し終わると笑顔で、
「そうか、今日もいい一日だったんだねえ」
と言った。たとえテストで赤点を取った日だって、最後の締めくくりはその言葉だった。
毎日のそんなやりとりがもうできないのかと思うと、自然に涙が浮かんだ。おじいちゃんとこの庭を眺める時間は、もう一生やってこないのだ。声を抑えて泣い ていると、お父さんが何も言わず横に座った。眼尻が赤い。きっとお父さんも私が帰ってくるまで泣いていたのだろう。二人でぼんやり庭を見ていると、お父さ んふとが口を開いた。
「桜 はおじいちゃんが一番好きな花だったんだ。亡くなったおばあちゃんとの思い出の花らしい。お前の名前をつけたのもおじいちゃんなんだよ、さくら。こんな ちっぽけな庭に咲くニセモノの桜の木でさえ、おじいちゃんは愛していたけれど、でもきっと一番愛していたのは、おまえとこの庭の前で過ごすことだったと、 お父さんは思っているよ。なあ、さくら。お前の名前に込められたおじいちゃんの気持ちを、大きくなっても忘れないでやってくれ。もちろん、一緒にすごした 時間も、だ」
2日後、小さな箱に入って戻ってきたおじいちゃんは、またあの庭の前にいる。あと少ししたらあの大きな木の下にお墓を作る、とお父さんは言っていた。きっとその頃には桜が満開だろう。
「一緒にお花見しようね、おじいちゃん」
あの無邪気な笑顔が見えた気がした。
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花粉症だけどお花見がしたいというジレンマに毎年悩まされています。
お花見ピーポー、今から絶賛募集中。
(naomi)














