間取りショートストーリー room11 約束


螺旋階段を上がった2階、3つ並んだ部屋のうち、真ん中が私の部屋だ。両隣には、親友の晃と修平が住んでいる。3年前、たまたま同じ日に入居した私たちは、大学が一緒だったこともあり一瞬で仲良くなった。体育会系でノリのいい晃、大人しくて優しい修平、そしておせっかいな私。お互いの部屋を行き来して、一緒にご飯を食べたり、ゲームをしたり、朝まで飲んだりする、そんな無意味でかけがえのない生活が、これからもずっと続くと思っていた。割と本気で。
晃は大手食品メーカーに就職が決まった。修平は外部の大学院試験に向けて勉強している。私は4回生の今の時期になっても、自分のやりたいことが定まっていない。適度に就職活動は続けているけれど、これといって働きたい会社も職種も見つかっていない。私がやりたいこと、私にできることって、一体何なのだろう。
「A社も落ちたよ。さっきポストに不採用通知届いてた」
「そっか…残念だったね」
「真面目に受けてないのに受かるわけねーだろ」
「ちょっと晃、そんな言い方ひどいよ」
「いいよ修平、晃の言うとおり。就職したくないのに就職活動してるんだもの。決まりっこない」
「なあ葵、おまえどうすんだこれから。もう6月だぞ。さすがにこのままフラフラする訳にもいかないだろう」
「そうだよ葵。お父さんとお母さんも心配してるんじゃないの?」
「…」
返答しない私に、2人の視線が突き刺さる。私は、ずっとここにいたい。ずっと学生のまま、晃と修平と3人でこのマンションに住んでいたい。一番、強いこの願いが、一番、叶いっこないことは、一番、私自身が知っている。そんなこと、言えるはずない。
「あー!やばいやばい、明日までの課題やんの忘れてた!私部屋に戻るね!おやすみー」
「おい、葵!」
適当な嘘をついて、晃の部屋を飛び出した。みんなはどんどん進むべき道を築いているのに、どうして私にはそれができないんだろう。なんで留まることしか考えられないのだろう。私は不安なのだ。離れ離れになると、今まで過ごしてきた時間さえ、偽物になってしまうのではないか、と。そして、性懲りもなく2人の存在に依存している。
情けなくて、悲しくて、寂しくて、ベッドに潜ると自然に涙がこぼれてきた。
数日たったある日、部屋のドアに張り紙があった。
「至急、修平の部屋に来るべし」
この乱雑な字は晃だ。ここしばらく、2人を避けていることに気付いたのかもしれない。何にせよ、こんなに堂々としたお誘いを無視するわけにはいかない。重い気持ちで、右隣にある修平の部屋のチャイムを鳴らした。
「あ、葵。いらっしゃい」
部屋の主は人懐こい笑顔で出迎えてくれた。
「きったない字で書かれた果たし状が届いたんだけど、送り主はここにいるのかしら」
「だれが汚い字だよ!」
晃が修平の後ろから顔をのぞかせた。
「まあまあ、お2人とも。さ、葵、入って入って」
きちんと整頓された部屋の真ん中には、たくさんの料理と、小さなホールケーキがちょこんと座っていた。非日常な空間に、目が点になった。
「何これ?今日ってどっちか誕生日だったっけ?」
「ううん、違うよ。今日はね、約束の日」
「約束?」
「そう。3人がこれからも一生友達でいますっていう、約束をする日」
「え…?」
「お前が考えてることなんて丸わかりなんだよ!アホめ!」
晃が私の頬を軽く叩いた。
「あのな、俺たちはいつかこのマンションを出なくちゃならん。いつまでも3人でいることなんてできない。だけど、離れるからなんだって言うんだ。北極や宇宙に行くわけでもあるまいし。会おうと思えばいつだって会えるし、しんどいことがあった時は駆けつけてやれる。だから、これまで過ごした時間まで否定すんな」
「やりたいことが見つからないなら、探せばいいんだよ。時間がかかってもいい、葵なら大丈夫だよ。僕が知ってる葵は、明るくて元気でみんなに愛されて、みんなを愛してあげられる子だ。きっと、何でもできるよ」
涙が、止まらなかった。自分の中にある不安の塊が、どんどん溶けていくのがわかった。
「ありがとう…」
そのあとは言葉にならなかった。
私は今、親の仕事を手伝いながら、週3回、近所の保育園にアルバイトに行っている。母親の知り合いに声をかけられてなんとなく始めたけれど、半年後には保育士試験を受けるつもりだ。
出かける前、私はいつもあの日の写真の前に立つ。晃も修平も忙しくて、なかなか会うことはできない。けれど私たちは、大丈夫。だって“決意表明”をしたから。
「いってきまーす」
ドアの先にある道に、一歩踏み出した。
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さてさて、なんと、初めてのお便りが届きましたよ!
今回の間取りは、Ukoさんより紹介いただきました「東京R不動産」の物件です。
Ukoさん、本当にありがとうございました!
間取りショートストーリーでは引き続き、おもしろ間取りを募集中です!
scrapmadori@gmail.com
までどしどしご応募ください!
さて明日はみほたんだよ!
(タニグチ)
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いままでの記事
2010-4-24 プロローグ(room01~08もコチラへ)
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2010-5-08 room10


















