間取りショートストーリー room12 私の観察日記

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room12

自分で言うのもなんだが、生来、私はこんなにひん曲った性格ではなかった。

誰に対しても明るく振る舞うことができ、大らかにそして朗らかに生きてきた。しかし、この家に住みだした頃から、私はとても卑怯でいやらしい人間になってしまった。人と関わることがひどく億劫になり、苦労して入った大学にもほとんど行っていない。かと言ってバイトに精を出しているわけでもない。人に出会えばこいつの弱点はどこだと荒探しをし、友人が愛らしい彼女を連れていると「別れてしまえ」と軽く100回は念じてしまう。ああ、どうしてこんなにみみっちい性格になってしまったのだ。

おそらく、その原因はこの奇妙な間取りのせいであると、私は考える。家具は配置しづらいわそもそも落ち着かないわで、一体だれが得をするのかわからない極端な鋭角を有するこの部屋で過ごしている間に、私はこんな性分になってしまっただと、今ここで断言する。

「嘘こけ。お前の性格は小さいころからかわっちゃいねえよ。いーっつも卑屈なことしか言わねえ。もっと明るく生きてみたらどうだ」

入口のカーテンを開けて入ってきたのは、同居人の清二だ。幼き頃より共に過ごし、大学は違えど故郷から同じ土地に越してきた。こいつと一緒に住むなんざうんざりだが、何せ都会は家賃が高い。この家は清二の叔母の持ち家で、タダ同然で住まわせてもらっている。その点においては(くやしいが)感謝せざるを得ない。

「やかましい。お前に私の気持ちなんざわかってたまるか。と言うか人の心の声を読むな」

「そんなでっかい独り言喋ってて何が“心を読むな”だ。大体、俺も同じような間取りの部屋で過ごしているが、ほら、この通り活動的で実りのある大学生活を送っているぞ」

「お前の部屋は広いではないか!しっかりとドアも付いてあるし。せめて6畳間に移りたいものだ」

「あそこは叔母の荷物が置いてあるから無理だっつってんだろう。何回も同じことを言わすな。というか、ここを誰の家だと思ってんだ。つべこべ言うのなら出て行け」

清二が蹴りを入れてきた。そう言われると、喉まで出てきた文句を飲み込むほかあるまい。

「おい、それよりいいのか。もうすぐ例の子が通る時間だろう」

私はハッとして、部屋の窓を開けた。いかんいかん、浮かれた大学生活を送る阿呆に付き合って日課を忘れるとこであった。

数分後、黒くつややかな長い髪を揺らしながら、一人の女生徒が部屋の向こうから歩いてきた。私の部屋の真下から清二の部屋の真下の方へ歩き、角を左へ曲がる。いつものコースだ。おそらくはこの道が自宅と学校を繋ぐ通学路なのであろう。毎日、朝と夕方の2回、きっちり部屋の下の道を通る。私は名前も知らないその麗しい少女を、部屋の窓から見下ろすことを日課としていた。最初に見たのはもういつか忘れてしまったが、その日のことはよく覚えている。空が茜色に染まった、綺麗な夕刻だった。ボーっと外を眺めていた私は、向こうからしゃなりしゃなりと歩いてくる少女に心を奪われてしまったのだ。

「なあ、知っているか。そういうのをストーカーって言うんだぜ。おお、おお、怖いねえ。幼馴染がそんなことしてるなんて、俺は情けないよ」

横に立った清二が泣き真似をしながら私を覗きこんだ。

「あんな低劣なものと一緒にするな。私の思いはもっと純粋で、高原に流れる小川のように澄んでいる」

「しかしまあ、見るだけでいいだなんてお前は本当に奥手だなあ。さー俺はデートでもしてくるかなあっと。いやあモテる男はツライねえ。はっはっは」

奇妙な笑い声を上げながら部屋を後にする同居人の頭を後ろからどついてやった。

その日も私は少女が通る時間に窓から道を見下ろしていた。そうして、まるで昨日の繰り返しかのように、彼女がその道を通った。しかし、その後いつもとはちがうことが起きた。彼女の鞄から何かが落ちたのだ。

「あっ…」

小さな私の声に彼女が気付く訳もなく、そのままいつものように角を曲がってしまった。私は急いで下に降りて彼女の落としたものを拾い上げた。小さなオルゴールがついたキーホルダーだ。リング状の金具が壊れている。オルゴールのフタを開けると、ゆっくりとメロディーが流れ始めた。どこかで聞いたことがある。たしか、ベートヴェンの「エリーゼのために」だったか。身分の違う2人の愛を描いた、美しく悲しい曲だ。パチンと閉じて曲を止め、オルゴール全体に目をやるとどうやらかなり年季が入ったものらしい。ところどころに時の経過を感じさせる傷が刻まれている。


ひょっとすると、私は、これを彼女に渡さなければいけないのか。

そこから2日間、私は彼女の観察を止めた。自分でも情けないこと極まりないが、このオルゴールを返すことで、いつも一方的に見つめている彼女の視界に、私が入ることが耐えられなかったのだ。目線があった瞬間、溶けてなくなってしまうかもしれない。というかこんな男の姿が彼女の眼に入ると、彼女が汚されてしまうかもしれない。しかし、これはおそらく彼女の大事なものだ。早く返さなければ、今頃悲しんでいるのではないだろうか…。自問自答は丸2日間続いたが、「ささっと返しちまえ。知り合うきっかけだぞ!」という清二の声に励まされ(そそのかされ)3日目にしてようやく窓を開けた。ただし、ほんの少しだけ。

少女はその日もいつものように姿を現した。しかしいつもより歩みは遅く、目線を地に向けている。やはり、このオルゴールを探しながら歩いているようだ。ああ、どうすればいいのだと悩んでいる私の目に、ふと顔をあげ、悲しげな顔つきをしている彼女が映った。その憂いに満ちた表情を見た瞬間、私は部屋を飛び出していた。そして、無意識に角を曲ろうとする彼女に声をかけていた。

「あ、あ、あの!」

「え…。はい?なんでしょう」

ああ、やはり美しい。真正面から見ると、上から見下げるよりなお美しい…。

「…?あのう?」

私はハッと正気に戻った。

「あ、す、すみません。先日この場所でこんなものを拾いまして…。もしかすると貴方のものかと…」

私がオルゴールを差し出した瞬間、まるで花が咲いたかのように彼女が笑った。私は、卒倒するかと思った。

「私のものです!ありがとうございます!ずっと探していたんです…。ああ、よかった…」

「そ、そんなに大事なものだったんですか?」

「はい。亡くなった母の形見で…。本当にありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいか…」

「お、お礼だなんてそんなものはいらないです!…た、ただ…」

「え?」

「あ、貴方の名前を教えてくれませんか?」


今日も今日とて、私は窓を開けて彼女が通るのを待っている。しばらく空を眺めている内に、彼女が下を通った。

「じゅ、純さん!」

窓から上半身を乗り出し、呼びとめると、彼女がこちらを向いて笑顔で手を振った。

「こんにちわ。今日は暑かったですね」

そうしていつものようにあの角へ消えた。


極端な鋭角を有するこの部屋も、そう悪くない。そう思った。


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先週、しれっと落としました。ネタはあったのですが妄想スイッチがONにならず…すみませんでした。

さてさて、なんと今週分もメールをいただきましたよ!

MadoriName略してM.Nという素敵な用語まで作って下さったヤマシタさん!ありがとうございました。

今回の間取りはコチラ

最近、本業の方で某人気作家さんにお会いしたということでね。今回の部屋が四畳半ていうことでね。ええ、まあこんな感じになりましたよ。

影響を受けやすい女なんです。ええ、ええ。

さてさて、間取りショートストーリーでは引き続き、おもしろ間取りを募集中です!
scrapmadori@gmail.com
までどしどしご応募ください!

もしよければTwitterなんかでメッセージもらっても。

@nandeyanen36

よろしくお願いしますー!

明日はみほたんのターン!

(タニグチ)

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