room15 透明な箱

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room15

どうやら私は死んでしまったらしい。そして、この部屋から街を見続けることが、当面の私に課せられた命令のようだ。
「不思議だ」
弱々しいしい声で発せられたそのつぶやきは、誰もいない部屋に溶けて、消えた。

私は、もうずっとひきこもりだった。記憶があいまいでよく覚えていないけれど、おそらく中学生1年の夏くらいの時から。原因は、クラスになじめずいじめの的になったから。どこにでもありふれている理由すぎて、くだらないけれど。最初は不登校になっただけで、両親とは普通に顔を合わせていたし、外出もしていた。だけど、月日がたつごとに自分以外の人間と触れあうことが怖くなって、ついに部屋から一歩も出なくなった。そして、二十歳の誕生日を迎えた今朝、部屋のドアノブにロープをかけて、首を吊って死んだ。これ以上この世界にいてどうにかなるとは思えなかったし、もう十分生きたと判断したからだ。

その私が、今なぜかビルや高層マンションが立ち並ぶ街のど真ん中にいる。四方が透けていて、360度、どの角度からでもからどんよりとした街を見下ろすことができる。

「気が狂いそう」

長年、誰とも会話をしていない私の声は、ひどくかすれていた。そもそも、死んだはずの私が、なぜこんなところにいるのだろう。従来の私の部屋はこんな街中にはないし、もちろん、透明でもない。TVがあって、ゲームがあって、マンガがあった私の部屋は、私だけが存在していい、ひとつの王国だった。誰も、私の国に侵入することはできない。私がすべてを統治する、私だけの国。私が命を絶った、あの国――。

目線の先には、ベランダで生殖行為をする男女がいた。初めてみるその動きは、ひどく生々しく、男も女も獣のような人間とは思えない顔をしている。目をそらし、逆方向を向くと、リビングで母親が少年に手をあげているのが見えた。少年は顔を真っ赤に腫らしながら泣き叫んで、それでも母親にすがりついている。なんと痛ましい光景なのだろう。ふと横のマンションに目をそらすと、借金の取り立てだろうか、強面の数人の男に羽交い絞めにされているおじさんが見えた。ビルに目を移せば、クマが浮かんだ顔を携え、まるでノイローゼのようにパソコンをいじっているサラリーマンが働いている。同じビルの会議室では、たぬきみたいなじじいが、若い女性社員の体を触っている。そして、そのビルの傍にある路地裏に、うずくまっている少女が見えた。彼女の周りには、制服を着た女の子が数人、立っていて、殴る蹴るの暴行を受けている。おそらく、いじめだろう。私も同じ目に会っていた。胸が痛みながらもなぜか目をそらすことができず、いじめの現場を眺めていると、うつむいていた彼女がふと、彼女が顔をあげてこちらを見た。その顔は、間違いなく、私の顔だった。その顔を見たとたん、自分の体から力が抜けるのがわかった。

人間なんて、汚いやつばかりだ。こんな世界、早々に縁を切って正解だったんだ。なんなら、もっと早めに死んだほうがよかったのかもしれない。自分が目の当たりにした“リアル”な社会へのショックから、頭が真っ白になり何も考えられなくなった。

「こんな部屋、早く出て行きたい。もうこれ以上、汚れた世界なんて見たくない。どうして、私、こんなところにいるの」

何も目にしないよう、膝に顔をうずめて、時間をやり過ごした。どれくらいの時間が過ぎただろう。ふと顔を上げると、見ていた光景とは違うものが目に入った。街はこれまでの重い空気とは一変して、明るく輝きのある街になっていた。愛にあふれた目でわが子を慈しむ母親、友達と道をかけて行く少年、恋人のために料理を作っている女性、家族の洗濯物を干している母親――。どの人々も、みんなが幸せに満ち溢れた顔をしている。
「これが、さっきと同じ街…?」

呆然と外を眺めていると、見覚えのある建物が目に入った。

「家だ…」

もう何万光年も前に旅立ったような私の家には、他の場所とは違う、沈んだ空気が漂っていた。黒い服を着た人々が、せわしなく門をくぐって出ていく。その誰もが、どこかで見たことのある人たちだった。母親が門の内側に立って、人々に深々と頭を下げていた。
「もしかして、あれ、私のお葬式…?」
誰も人がいなくなると、父と母が私の王国に足を踏み入れたのが見えた。生きている時なら、死に物狂いで怒っただろうけど、何せ私はもう死んでいるのだ。二人はそっとベッドに腰掛け、そして顔を覆って泣きだした。この部屋まで音は届かないけど、まるですぐそばで泣いているかのような気がした。いつの間にか、私は遠くに見える父と母と一緒に、大泣きをしていた。
私は、何も知らないまま死んでしまった。人間の黒い部分に少しふれただけで、世界が怖くなって、すべてを遮断してしまった。私がいた国では、目をそむけたくなるようなものと同時に、素晴らしく美しいものや生きる楽しさまで、遮断していたのだ。汚いことも、美しいことも、そのどちらもが混在する世界。それを知らぬまま、自ら命を絶ってしまった。愛してくる人は、すぐ傍にいてくれたのに――。

「ごめんなさい。ごめんなさい――。私、本当は、生きたかった…」

その言葉が口をついたとたん、私の体は泡になって消滅した。次の世界では、きっと、いろいろなものを目にできるはずだ。そう信じている。

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と、いうわけでお久しぶりですの間取りショートストーリーです。きっともうみなさんの記憶から消え去っていたと思いますが、ちゃんと生きてますよ!
前回の更新から1カ月半?うふふ、世の中なめてますね。

で、突然ですが、「間取りショートストーリー」は今回が最終回となります。
誰得感が甚だしい連載でしたが、感想をくれる方やSCRAPイベントで「楽しみにしてます!」と声をかけてくださる方もいて、とてもうれしかったです。
ラスボスです。の連載はこれにて終了ですが、またどこかで「間取りショートストーリー」はやるつもりです。
(今以上にマイペースな感じで)
そのときはどうぞよろしくお願いします。

短い間でしたが、ご覧いただきありがとうございました。
よければ、感想などお送りください。喜びます、私が。

scrapmadori@gmail.com

次回から、期待の新星によるどっきどきの新連載が始まりますので、どうぞお楽しみに!
これからも、SCRAP&ラスボスです。をよろしくお願いします!

それでは、またどこかで。

(生きてりゃいいことあるさ、を伝えたかったんです。タニグチ)

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いままでの記事
2010-4-24  プロローグ(room01~08もコチラへ)
2010-5-01  room09
2010-5-08  room10
2010-5-15 room11
2010-5-29 room12
2010-6-12 room13
2010-7-03 room14

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