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  2. 『5分間リアル脱出ゲーム 失われたシャーロック・ホームズと10の予告状』少年探偵SCRAP団予約限定特典「特製謎付き予告状」 エンディングストーリー

『5分間リアル脱出ゲーム 失われたシャーロック・ホームズと10の予告状』少年探偵SCRAP団予約限定特典「特製謎付き予告状」 エンディングストーリー

※『5分間リアル脱出ゲーム 失われたシャーロック・ホームズと10の予告状』のCase.01「ビッグ・ベン盗難予告」を遊んでから読んでください。

 

 

 

* * *

 初春を迎えたとはいえ、ロンドンの夜はまだ肌寒い。ハイド・パークの外れをひとりの男が歩いていた。背筋はピンと通り、細身だがよく鍛えられ、研鑽(けんさん)を積んだと一目でわかる身のこなしをしている。男は周囲でも一際奥まった場所にある大きな屋敷に入っていく。中に入ると、ひとりの老紳士がまるで男の来訪を予期していたかのように出迎える。

「やあ、なかなか早かったね」

 蜘蛛(くも)。それが男が老紳士に持った第一印象だった。にこやかだが、それに油断して間合いに入ったらあっという間に糸に絡め取られてしまいそうだった。

「お初にお目にかかります、モリアーティ教授。私は……」

「堅苦しい挨拶はやめて座り給(たま)えよ、ブラックウッドくん。今、紅茶を入れるからさ」

 そうして老紳士……ジェームズ・モリアーティは紅茶を注ぐ。ティーカップからは湯気が立ち上り、男が来る直前に沸かしたようだった。何故、この老紳士は男が来るのがわかったのか。来訪など告げてもいないのに、そしてまだブラックウッドという名すら名乗っていないのに! 薄ら寒いものを感じ、ブラックウッドは供された紅茶を、いや座ることすら固辞する。老紳士の思い通りにされまいとする、せめてもの“抵抗”だった。だが、それすらも予想通りと言わんばかりに老紳士は笑う。

「なかなか堅物だね。いや、英国王室に仕える者ならそうじゃなきゃいけない。うん、テストは合格だ。君が一番早かったからね、君でいい。これからよろしく頼むよ」

 そう言って握手を求めた老紳士の手を、ブラックウッドは恐る恐る取った。悪魔との契約、正しくそんな気分だった。王命とはいえ、何とも気が重い。いや、そもそも王室は本当にこんな悪魔と……! いくら頭の中とはいえ、それ以上の“異議”はブラックウッドには許されなかった。気を取り直して、任務に戻る。“モリアーティの部下”という任務に。

「教授、ひとつよろしいですか?」

「何だね?」

「『EVENT』……つまり『催し』。教授が我々“候補者”に宛てた予告状の謎の答えはそれでした。教授は謎が解けた者にこれから始まる予告犯罪の最初のターゲットを教えると書かれています。ですが、私は最初のターゲットは“時計塔”と聞いております。これはいったいどういうことでしょう?」

 ブラックウッドの言葉に、老紳士はさも当たり前かのような顔をして答える。

「ああ……時計塔はね、囮(おとり)さ」

「囮?」

 ブラックウッドのこめかみに冷や汗が浮かぶ。冗談じゃない、王室は何も聞いていないぞ!

「うん。ちょうど予定の日に大きなヨットレースがあってね、そこに時計塔が上手(うま)く絡められそうなのさ。なかなか高い芸術点が狙えそうだよ」

「……教授。あくまでも目的は警察……スコットランド・ヤードの捜査網構築とそれにまつわる“実験”です。計画は既に十分練られていました。目的外のことをして失敗しては本末転倒です」

 だがブラックウッドの苦言もどこ吹く風だった。老紳士は悪びれる素振りも見せない。

「彼らには本気を出してもらわなくっちゃ実験にならないからね。これくらいがちょうどいいのさ」

「……あくまで本気を出させるのが目的だと? わざわざ“予告”までするのも?」

 問い詰めるブラックウッドに老紳士が肩を竦(すく)める。

「そうさ! 他に何があるんだい?」

「……シャーロック・ホームズが原因では?」

 その名を出した瞬間、空気が一変した。蜘蛛は好々爺(こうこうや)の仮面を外し、肉食の冷たい笑みを浮かべる。

「ほう? かの名探偵が何だって?」

「……あなたはシャーロック・ホームズに“思い入れ”があると聞きました。教授、あなたは事件を大きくすることによって、彼を誘(おび)き寄せようとしているのでは?」

「だとしたらどうするね?」

「……計画の修正を提案します。シャーロック・ホームズはライヘンバッハの滝に落ちて死にました。“あなたが一番ご存知”のはずですが?」

 踏み込み過ぎだろうか。問題ある人物なのは間違いないが、仮にも王室が手を組むと決めた相手だ。いかに“見極め役”を担ってるとは言え、ブラックウッドの一存で関係を悪くするわけにはいかない。ましてや、怒らせたらどんな災いが起きるかわからないのだ。

 だが、予想に反して蜘蛛は楽しそうに笑いを漏らすだけだった。

「ふふ。いいね、ブラックウッドくん。面白いよ。……シャーロック・ホームズがライヘンバッハの滝で死んだと言うなら、ここに私がいるのは何故だい? “一緒に落ちた”と言うのに? それともあれかな、私は亡霊だとでも言うつもりかな? 亡霊……でもまあいいけどね。……ふふふ、……ふはは、はーっはっは!」

 ジェームズ・モリアーティが高らかに笑う。それは滝壺(たきつぼ)から甦(よみがえ)った悪の亡霊そのものに見えた。だとしたら、その反対の……正義の亡霊は……?

 気付けば、蜘蛛は再び老紳士の“仮面”を被っていた。

「ブラックウッドくん、君はスコットランド・ヤードに潜り込んでくれ。レストレードの部下がいいかな。入ったら……そうだな、まあ上手く“活躍”してくれていいよ。必要な時は連絡する」

「承知しました」

 こうして王室、モリアーティ、スコットランド・ヤード……3つの頂(いただき)の配下となるブラックウッドの3重生活が始まる。

「楽しくなりそうだねえ」

 

 2か月後、ビッグ・ベン盗難事件が発生する。1893年のロンドンを騒がす「連続予告犯罪」、その最初の事件である。

 

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