【ある猟奇殺人犯の愛読書】制作秘話を特別公開!
アンケートにご協力いただき、誠にありがとうございます。
『ある猟奇殺人犯の愛読書』、楽しんでいただけましたでしょうか。
改めて、遊んでくださって本当にありがとうございます。
このページでは、登場人物のモデルや、作中に登場する舞台にまつわる小ネタ、創作にあたって影響を受けた本などを、一部ご紹介します。
キャラクター誕生の裏側
まずは、物語の主要な登場人物たちについて、モデルとなったキャラクターや、どんな狙いで作ったのかをご紹介します。
◎トビー・ペイジ

この物語の主人公、図書館司書のトビーは、映画『スパイダーマン』の主人公ピーター・パーカーをイメージしています。
物静かでどこかさえないけれど、大切な人を守るためには勇気を振り絞って困難に立ち向かう……そんな要素をトビーに重ねました。
「トビー」という名前は、2002年版でピーター・パーカーを演じた俳優トビー・マグワイアから拝借しています。
「ペイジ」は、本の「ページ(page)」をもじって「ペイジ」です。
本編では、「よりトビーに感情移入してもらいたい」という意図から、あえてトビーの顔を登場させていません。
もしかしたら、ピーター・パーカーのように眼鏡をかけて、七三分けの髪型をしているかもしれませんね。
◎ロバート・レッド

トビーとずっと一緒に調査を進める、相棒のロバート。
『ある猟奇殺人犯の愛読書』を見つけて読み進める中、「もしかして彼こそがストーリーテラーなのでは?」とわかった瞬間に、プレイヤーのみなさんに、より大きな衝撃を受けてほしい……そんな企みで、彼のキャラクターを作り上げました。
そのため、みなさんにより愛していただけるよう、どこか憎めなくて、気づけば彼のことを好きになっている……そんな「愛すべき相棒」としてのキャラクターづくりを意識しました。
ロバートのキャラクター像は、いくつかの映画キャラクターの要素を参考にしています。
シナリオを考え始めた頃、土台として頭に置いていたのは、映画『セブン』でブラッド・ピットが演じたミルズ刑事でした。
優しくて美しい妻をもち、凄惨な連続殺人事件を起こす犯人に対して強い怒りを隠さない……そんなイメージが出発点でした。
そこから「体格から頼りがいのある雰囲気を出したいな」と思い、映画『ゴーン・ガール』で主人公ニックを演じたベン・アフレックの雰囲気を足しました。
いつも少しよれたシャツを着ているのは、ニックの影響ですね。
さらに「もっと親しみやすい相棒にしたい」という思いを込めて、映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でブラッド・ピットが演じた、主人公の相棒クリフのような、肩の力が抜けたムードも意識するようになりました。
愛車を乗り回すイメージも、クリフをイメージしてつけた設定です。
せっかくだから…と愛車の車種も決めて、シボレー・シェベルという設定にしました。
車にあまり詳しくないので「こんな感じかな?」と恐る恐る選んでみたのですが、みなさんのイメージとはあっていましたでしょうか?
名前は往年の俳優ロバート・レッドフォードから拝借しています。
元々の土台が「ブラピ」が演じたキャラクターだったこともあり、「ブラピと似ている」と言われる俳優つながりで、この名前にしました。
また、名字が「レッド」という色名になっているので覚えやすいかも……という狙いもありました。
◎ミッキー・ホーク

ミッキーは、作家である親が自分を題材に小説を出してしまう……そんな幼少期の環境の中で、「世間がイメージする自分」と「本当の自分」の姿に乖離(かいり)が生まれ、悩み、心を病んでいく。
そんなキャラクターにできるといいな……と思って作りはじめました。
参考にしたのは、『くまのプーさん』のクリストファー・ロビンや、映画『ゴーン・ガール』の失踪した妻エイミーなど。
ミッキーと同じく、親が書いた小説の主人公にされてしまったキャラクターたちです。
母親であるアリサの書いた『なきむしぼうや』やアリサの貸出履歴を見ると、彼女がミッキーに「自分が思う理想の男性像」を押し付けていたことが伺える。
一方で、ミッキーの貸出履歴を見ると、そんなアリサの影響か、大人になってからも「男らしさ」にこだわってしまっていることが垣間見える……。
そんなふうに、「本」から二人の関係性がにじみ出るようにしたいな、と考えて作りました。
それと、「やっぱり凶悪な連続殺人鬼の職業といえばブッチャーでしょ!」ということで、職業は迷わずお肉屋さんに決めました。
◎マーサ

重要な真犯人であるマーサですが、「マーサが犯人」と確定したのは、実はシナリオが固まる直前です。
マーサは最初、ゲーム『逆転裁判』の「オバチャン」みたいな、ちょっと笑えて印象に残る、アクの強い「面白いモブ」を作りたい……という発想から生まれたキャラクターでした。
そのイメージ通りの印象的なキャラクターになっているのではないか…と思っています。

よく見ると、登場人物の中で彼女だけ目に光がないことに、みなさん、お気づきでしたでしょうか?
◎リリー

マーサの標的となり、無惨に殺されてしまうリリー。
彼女は、映画『セブン』に登場するミルズ刑事の妻、トレイシーをイメージしています。
夫を思う優しい妻。
けれど、夫に心配をかけまいとして、本音を真正面から伝えられない……そんな人物像です。
結果的にロバートの命を守ることになった『料理の基本とレシピ辞典』は、ルナール図書館の蔵書の中にも紛れています。
ぜひ探してみてくださいね。
生前の彼女がどんな気持ちでこの本を家に置いていたのか。
ロバートに対してどんな気持ちを抱いていたのか。
『料理の基本とレシピ辞典』から、なんとなく見えてくるかもしれません。
◎エマ

トビーの大事な一人娘。
物語上では詳しく語られませんが、トビーは若くして妻を病気で亡くし、一人娘のエマと二人で寄り添って暮らしています。
トビーもエマも、お互いを大切に思っているのに、エマが思春期なこともあって、つい衝突してしまう。
そして、親子ゲンカをして別れたときの会話が、そのまま最後の会話になってしまう……。そんな「あるある設定」をやりたくて生まれたのが、エマというキャラクターです。
エンディングでこちらに手を振るエマは、ドットイラストを担当してくださった石田芙月さんが、笑顔も手を振る仕草も、どこか控えめに仕上げてくださいました。
「エマは、トビーの性格を受け継いで、控えめだけれど優しく、芯の強い子……」という私の中のイメージを完璧にくみ取って表現してくださっていて、とても気に入っている1枚です。
◎ベル・キャロル

彼女の「ベル」という名前は『美女と野獣』の主人公「ベル」に由来しています。
というのも、もともと彼女は、あのような二面性のあるキャラクターではなく、ただただ美しくて本が大好きで、おしとやかで知的…そんなイメージで作っていたのです。
それが、あのように振れ幅の激しいキャラクターになったのは、シナリオを監修してくださった脚本家であり、演出家、振付家、ダンサーそして俳優としても活躍されている池浦毅さんのアイデアです。
登場シーンの少ないベルですが、少量でもピリリと料理の味を引き締めるスパイスのような、魅力的な存在になっているのではないでしょうか。
彼女が借りている『プロムの夜の必勝法』は、ルナール図書館の蔵書の中でも私の特にお気に入りの本の一つなので、もしまだ読んでいない方は、ぜひ読んでみてくださいね。
物語を彩る舞台の裏側
ここからは、物語に登場した数々の舞台について、いくつかピックアップしてご紹介します。
◎ミッキーズ・ブッチャー


マーサが登場する「ミッキーズ・ブッチャー」は、お店の外観も内装も本当に可愛い! ドットイラストを担当してくださった石田芙月さんが、細部までとびきり可愛く仕上げてくださいました。
このゲームのプロジェクトチームでもお気に入りだというメンバーが多く、壁紙にしている人が何人かいるほどです。
ミッキーズ・ブッチャーのシーンは、メロウなシナトラ風のBGMも印象的です。
自らが脚本家となって現実世界を舞台に『ある猟奇殺人犯の愛読書』の結末を描き出そうとしたマーサですが、「ブロードウェイで舞台化されてるって話題のロマンス小説を読んでいたら…」というセリフにも表れているように、「舞台好き」という一面もあります。
きっと店内では、彼女のお気に入りの舞台のサントラを流していたのでしょう。
それを裏付けるかのように、店内の奥の方にジュークボックスがひっそりと鎮座しています。
これは、ミッキー亡き後、この店の店長となったマーサが、店内BGMを流すために置いたもの。
お肉屋さんにはちょっぴり不似合い……だからこそ、彼女らしさがにじむ小道具になりました。
◎グリズリー・プレス


グリズリー・プレスは、老舗の大手出版社らしさが外観からにじみ出るように、クラシックな雰囲気の建物にすることを意識しました。
モデルとして真っ先に頭に浮かんだのは、ニューヨークの5thアベニューにある「フラットアイアンビル」です。
あのビルのような、どっしりとした存在感と格式のある空気を、少しでも感じてもらえたら……と思いながらデザインを依頼しました。
実際にグリズリー・プレスを訪れたロバートも、その風格に圧倒されたのでしょうね。
事件資料のベル・キャロルのページには、グリズリー・プレスのことを「とっても立派な出版社」と、ちょっと子供みたいなコメントを書き残しています。
◎プレミアムストレージ

ロバートが、瓶詰めにされたおぞましい遺体を発見する、街外れの倉庫「プレミアムストレージ」。
この場所は、ある映画に登場するシーンのオマージュになっています。
もしかしたら、ピンと来た方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そう!
映画史に残るサイコ・スリラーの金字塔『羊たちの沈黙』です!
未見の方は、素晴らしい映画なので、ちょっと怖いかもしれませんが、よかったらぜひみてみてください!
このゲームは、先述した『セブン』、そしてこの『羊たちの沈黙』に多大な影響を受けています。
(遺体の口の中に異物が詰め込まれているのも、『羊たちの沈黙』のオマージュです)
主人公クラリスが街外れの倉庫を調査する、あのシーン。
「あの緊張感に少しでも近づきたい!」。
その思いからプレミアムストレージのシーンは産まれました。
物語に登場する「あのシリーズ」の元ネタは?
この物語を作り上げるにあたって、参考にしたのは映画だけではありません。
「本」がテーマのゲームですから、もちろん数多くの「本」からも影響を受けています。
ここでは、ゲーム中に登場する「あのシリーズ」の元ネタとなった本を、ご紹介します。
◎「探偵ギャレット」シリーズ
このゲームを作り上げる中で、本当に数多くの本が生まれては消えていったのですが……そんな中、初稿ができた頃から完成に至るまで、ずっと残り続けている本があります。
それが「探偵ギャレット」シリーズです。
ちょっとニヒルな雰囲気の探偵「ギャレット」は、小説『ロング・グッドバイ』の主人公、フィリップ・マーロウを土台にしています。
私はフィリップ・マーロウに漂う、あのなんとも言えない哀愁をこよなく愛していまして、企画段階から「作中に探偵ものの本を出すなら、主人公は絶対にマーロウみたいにしたい」と思っていました。
出来上がったギャレットシリーズを読み返すと、フィリップ・マーロウ…だけでなく、シャーロック・ホームズっぽさも混ざっている気がしますが……それはそれでよし、です!
『ロング・グッドバイ』の名ゼリフといえば「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」が有名ですが、私は「ギムレットには早すぎる」というセリフも大好きでして……。
(未読の方は、それぞれ、どんなシーンで誰が言うのか…是非、原作を読んで確かめてください!)
なので、ギャレットにもギムレットを飲ませたかったのですが……。
謎の都合でどうしても「眼鏡を曇らせる」必要があり、でもギムレットを温めるのもなんか違うし……となり、結果、ホットワインになってしまいました(笑)
もし次回作があるとしたら、今度こそギャレットにはギムレットを飲んでもらいたいと思っています。
以上、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
まだまだ書き足りない裏設定や制作秘話が山ほどあるのですが……それはまた、別の機会に。
ここに書いた裏話も含めて、この物語を楽しんでいただけていたら、とてもうれしいです。

text by 江坂果穂(コンテンツディレクター)