ひかがく ヒラメキBOX「ツギハギ手紙の文学」正解
「からー」
再び私がつぶやくと、今度は教壇(きょうだん)のあたりが光に包まれた。
やはり眩しさで、瞼を閉じてしまう。
目を開けると、教壇には先生が立っていた。
「……先生、これは夢ですか?」
「君がそう思うのなら、そうなのかもね」
「先生は……どうして突然(とつぜん)学校からいなくなってしまったんですか?」
「……すまなかった」
「先生?」
「君の……悲しむ顔を見たくなかったんだ」
「……転勤じゃなかったんですね」
「ああ、もうこの世のどこにも私はおらんよ」
なぜだろう、私はどこかでわかっていた。
たかが転勤ならば、先生が私に何も告げない訳がない。転勤先を誰も教えてくれない訳がない。
でも、どこかでまだ先生は文学を教えている、そう信じたかったのかもしれない。
私は1つだけ気になっていたことがあった。
「なんで、『からー』なんですか」
先生は窓の外の鮮やかな緑色に目をやると、おもむろに答えた。
「……この世にはたくさんの色がある。どの色を自分のパレットに乗せるかは君次第だ。そして、乗せた色がどこかで意味を持つかどうかは、乗せた時点ではわからない。そう、君がその謎を解き始めたときのように」
「意味……」
「きっと、君のパレットには私と議論したあの放課後の色が乗っていると思う。そしていま、君は他の色を乗せたくない、他の色なんて意味が無い、そう思っているんじゃないかな?」
「……」
「たくさんの色を乗せなさい。その色に意味があるかどうか、いまはまだわからない。それでも、たくさんの色を乗せて、いつか私との放課後の色がかすんでしまうくらいに、世界の色を楽しみなさい。それが、私が君へ最後に教えたかったことだ」
先生がそう言うと、教室全体が光に包まれ始めた。
「先生!!」
「では、さようなら」
……
気が付くと、私はいつもの教室にいた。
周りには誰もいない。窓からは夕陽(ゆうひ)が差し込む。
時計に目をやると、ちょうど先生といつも議論を交わしていたくらいの時間だった。
どうやら放課後に教室に1人残ったまま、机で寝てしまっていたようだ。
いまは夕陽でオレンジ色に染まったこの教室も、明日になればまた新たな色に変わっていく。
「先生、さようなら」
そう呟(つぶや)いて、私は家路に就くのだった。


