2月14日、12時の鐘がなるまでに。2
【序章】
あなたとカムパネルラが相談所のドアをくぐって外に出ると、小さな子どもがこちらを見上げて座っていた。
その小さな体には大きすぎる、真っ赤なマフラーを首に巻いている。
少し扉の前で悩んだのか、雪が鼻先に積もっていて寒そうだ。
目の前から聞こえた小さなくしゃみの音にはっとしたカムパネルラは、
「ささ、どうぞ中に入って。あたたかい暖炉のそばでお話を聞きましょう。新入りくんは、彼になにか飲み物を」と言って、子どもを事務所の中に招き入れた。
あなたは、ゆっくりとミルクを器に注ぎながら、ふかふかのソファの上で落ち着かなさそうにあたりを見回す子どもに名前を問いかけた。
子どもは小さな声で俯きながら「ハイネです」と名乗った。
どうして相談屋にやってきたのか、カムパネルラがその理由を聞くと、ハイネはゆっくりと話し出した。
「じつは、お礼を伝えたい人がいるんです」
「お礼?」
「はい。あれは…… ちょうど今日のような雪の降る日のことでした」
「街にきたばかりで道に迷ってしまったぼくは、神社の屋根の下で、雪が止むまでやりすごそうと休んでいました」
「でも、一向に止む気配がなく、手も体も冷たくてもうダメかもしれないと思ったそんな時、ふわっとあたたかい何かがぼくの体をつつみこんだのです」
「目をあけると、そこには1人の少年が立っていました。彼は、自分がつけていた真っ赤なマフラーをぼくにくれたのです。これしかできないけど、ごめんね。と言って雪が止むまで一緒にいてくれました」
ハイネは真っ赤なマフラーを大事そうに撫でながら話を続けた。
「その次の日から、ぼくたちは毎日、あの雪の日に出会った神社で遊ぶようになりました。ボール遊びをしたり、追いかけっこしたり……でも、実はぼくはまだ、あの日もらったマフラーのお礼をちゃんと伝えられていないんです」
「ありがとうって伝えたいけど、自分だけじゃどうしたらいいか分からなくって…… 誰かに相談してみようと、なんでも相談所にきたんです」
ハイネの話を静かに聞いていたカムパネルラは、事務所の壁にあるカレンダーに視線をうつすと、何かいいことを思いついたような顔をしてハイネに話しかけた。
「なるほど、気持ちを伝えたい、ね。それなら今日はうってつけの日だ。だって、今日は2/14。大切な人に想いを伝える日だからね」
「大切な人に想いを伝える日、ですか…… ?」
「そうそう、世の中の人は『バレンタインデー』って呼んでるよ。プレゼントを選ぶ人で、デパートなんかは大忙しさ」
「へえ、なんだか楽しそうですね…… !」
「面白いよね。だから、今日想いを伝えるのがいいんじゃないかな。ひとつ、贈り物も添えてさ」
「贈り物…… ぼく、あんなに遊んでたのに、何が好きなのか、パッと思いつかなくって…… 」
「何か彼について知ってることは?」
「……知ってるのは、赤いマフラーをくれたってことと、優しいことと、『ショータ』って名前で友達から呼ばれてることくらいで…… あ、お家なら知ってますよ……!」
「後をつけたの?」
「ち、違います! たまたま、お散歩していたらそのお家に入っていくのが見えたんです…… !」
「ふふ、わかったよ。じゃあ、そのショータくん? とやらのお家に行ってみようよ。きっと何かしらの手がかりが見つかるはずだよ」
「ええ!? まだ、心の準備が……」
「善は急げだよ、ハイネくん。じゃあ、いこうか。新入りくんも用意して!」
あなたは準備をしながら、ショータくんのお家はどこにあるのかを尋ねた。