Mystery for You 危険潜む謎解きキット事件簿
〜翌日のリドル探偵事務所〜
「おはようございます!」
彼女は、昨日あんな事件に巻き込まれたとは思えないほど元気に事務所へやってきた。
「所長、昨日は本当にありがとうございました。」
「礼には及ばないよ。それにしても、最近会得したキックがもう実践できるなんて、良い機会を用意してもらったよ。」
「そんなことより、昨日のあれはどういうことだったんですか!?」
「まず謎解きについて話そうか。我々は昨日持ち込まれた事件を追って、見つけ出したSNSアカウントからWEB謎に挑戦したんだったな。その謎解きは通常であれは「ストーリー」という答えが出て終わりだったんだが…」
「私、そんな答え見た覚えないですよ?」
「そうなんだ。我々は同じ謎を解いていると思っていたが、実際には少し違っていたんだ。厳密には私のスマートフォンと君のスマートフォンでは違う部分があったんだ。」
「っ! まさか、この画面割れ?」
「まさに。君のスマートフォンの画面は、昨日の昼間から故障していて、画面の左端5分の1程度が見えなくなっていたね。私もその状態にして謎を解いてみたんだが、そうすると、最後の指示が『このなぞいんさつしろ』というものに変わったんだ。」
「そうです! それで私、近所のコンビニに印刷しに行こうとしたんです!」
「そう思って、君の家の近くのコンビニまで車を走らせたんだ。」
「そんな仕掛けが… でもなんであの社長がいたんですか。所長、昨日帽子を脱がせたとき『やはりか』って言ってましたよね! あれはどういう意味だったんですか!?」
「昨日、車を走らせている中で考えていたんだ。さくら君、君はスマートフォンの画面が割れたことを誰かに伝えたか?」
「昨日割れたばかりだから、誰にも伝えてませんよ。」
「そうだろう。君のスマートフォンの画面が割れたのは昨日の昼間。そこから誰にも会っていないとすれば、それを知っているのは、君自身と私。そして、あの社長しかいない。」
「まさか… でも、なんで私のこと狙おうなんて。」
「それに関して、昨日帰ってから私の方で調べてみた。さくら君、あの男に見覚えはなかったか?」
「どこかで見たと言われれば…」
「彼は、君が前の事務所で不倫調査をしていた人物だったんだ。当時は案件も多かったから記憶に残っていないかもしれないが、君が張り込みをしていた不倫調査によってあの社長は不倫の事実が妻にバレて、多額の慰謝料とともに離婚を突きつけられていたらしい。」
「それで、私を… まさか、そんな逆恨みみたいなこと。」
「探偵は敵を作りやすい職業だからね。彼に同情するわけではないが、絶望の淵に追いやられたと考えれば、動機としては十分だろう。」
「最後に聞かせてください。彼はどうやって私を連れ出したんですか?」
「ここからは憶測になってしまうけど。謎解きキットにクレームが、というのはおそらく作り話だったのだろう。そんな案件を持って探偵事務所に乗り込めば、必然的に話に乗ってくる。そして、肝心のトリックについてだが。昨日、君のスマホを落としたのは、あの社長だった。あれがもし意図的なものだったとしたら。」
「彼はさくら君のスマホを落下させ、画面が割れることまで計算していた。多分、多少の割れ方の違いなら謎をいじれば対応できるようになっていたのだろう。そして、いくつかのヒントだけ残してこの事務所を立ち去れば、自然と謎を求めて調査を始め、最終的にあのWEB謎に行き着く。それを君に解かせることができれば、彼の作戦は成功だ。」
「でも、偶然が多すぎませんか! 私たちが本当に続きを調査するかもわからないし、私が印刷しようとしてコンビニに行くかもわからないし、第一にスマホの画面がちゃんと割れるかもわからないし…」
「さくら君は『可能性の殺人』というのを聞いたことがあるか?」