トンネルの先の料理屋にて(1) この世はすべて理不尽りふじんだ。 厳正なる選考の結果…… その一文だけで、私の持っていた夢は、思ったよりもあっけなく崩くずれおちる。 “いつかは報われる” “誰だれかが見てくれている” そう信じてきた言葉は、ただの文字列だったらしい。 痛みに鈍にぶくなった私は、ノートにいくつかの文字を淡々たんたんと書きつけた。 それは、私が何かを“諦あきらめる”ために用意した、ささやかな儀式ぎしきのようなものだ。 空腹を満たすだけの朝ごはんは味がしなかった。 *** 「……それでね、長いトンネルをぬけてようやく着いた駅が無人駅でさ。周りには何もないのに、遠くから祭囃子まつりばやしが聞こえてきたり……」 友人の怪談かいだんめいた話が続く。 「うん」 「実はその駅が異世界とか、生と死の間の世界とかで…」 「うん」 「いや、絶対興味ないでしょ」 「そんなことないよ」 興味がないわけじゃない。 ただ、現実の方が手一杯ていっぱいなんだ。 「なーんてね。全部ウソかもしれないけど」 うん、たぶん全部ウソだ。 そのときは、そう思っていた。 *** 帰りの電車の中。 そこそこ混んでいたものの、ちょうど私の目の前の席が空いた。 わずかにぬるい椅子いすに腰こしを下ろすと、その温度がじわりと背中に移ってきて、まぶたが急に重くなった。 「……次は、くじ……次はごうと……」 まだ最寄り駅までは時間がある。 少しだけ眠ねむってしまおう。 そう思った瞬間しゅんかん。 「許されると思っているのか!!!」 車内のざわめきをすべてかき消すような声。 稀まれに遭遇そうぐうする“厄介やっかいな乗客”だ。 せっかくの睡眠すいみんを台無しにしてくれる。 「……神にすべて見られている! 報われた人間だけが天国に行き__!!」 見られている。 報われた人間。 天国。 どれも私には関係ない。 みんな、そちらを見ていないふりをしている。 こっそりスマホを向けて、にやついている人もいる。 もういい。 このまま寝ねたふりをしよう。 私はただ、何も考えずに眠りたい。 私はただ…。 私は…。 続きを読む