トンネルの先の料理屋にて(6) ナミちゃんに暗号の答えを伝えると、彼女はいつも通り調理に取りかかった。 完成した料理は、少し崩れたおばけが描かれたホットケーキだった。 それを不安そうに座る男の子のもとへ運ぶ。 皿を見た瞬間、男の子の表情がぱっと明るくなる。 そして一口食べた途端、抑おさえきれないように笑みがこぼれた。 「これ! これ! 大好物のやつ!!! ハロウィンに食べたやつだ‼︎」 やはり、暗号の示した通り、これが彼かれの記憶に残る大好物なのだ。 夢中でホットケーキを頬張ほおばる男の子に、私は店に入ってきたときのことをたずねる。 「お姉ちゃんとは、はぐれちゃったの?」 男の子は口いっぱいのホットケーキを、ゆっくり飲みこんでから答えた。 「わかんないけど……。お姉ちゃんと電車に乗ってて……。でも、なんか気づいたら一人になってて……」 言葉がとぎれ、彼は首をかしげる。 「うーんとね……」 何かを思いだそうとするその様子に、ナミちゃんが厨房ちゅうぼうから出てきて、柔らかく声をかけた。 「ぼく、もう大丈夫そう?」 その問いかけが、胸に引っかかった。 しかし彼は、迷いなく笑顔で答える。 「うん‼︎ 大丈夫‼︎」 やり取りに、強い違和感いわかんを覚える。 (……何が、大丈夫なんだろう) しばらくして、男の子はホットケーキをきれいに完食した。 そして扉の前に立ち、振ふりかえって大きく手をふる。 「ばいばーい!」 そのまま、店を出ていった。 直後、壁に飾られた小石時計の中で、小さな石がひとつ、音もなく下へと落ちる。 気づけば、上のガラスに残る石は、ほんのわずかだった。 胸の奥が、ざわつく。 「……ナミちゃん、ごめん。ちょっと外の様子、見てくる!」 返事を待たず、私は店を飛びだした。 外に出ると、男の子は不思議なほど迷うことなくどこかへ歩いていく。 まるで、行き先を最初から知っているかのように。 やがてたどり着いたのは、最初の駅で見たものとよく似たトンネルのような場所だった。 だが、そこには門があった。 閉じかけた門のすきまから、白い光が漏もれている。 男の子が門の前に立つと、まるで彼を待っていたかのように、門が静かに開いた。 白い光があふれ出し、男の子の身体を包みこんでいく。 嫌いやな予感が、全身を駆かけめぐる。 「待って……!」 思わず手をのばした、その瞬間。 頭上に、強烈きょうれつな衝撃しょうげきが走った。 「オマエノバンデハナイ」 感情のない、誰でもない声。 (……私の、番じゃない? 何の話……?) 視界がゆがみ、意識が遠のいていく。 その中で、なつかしい匂いがした。 (……ナミちゃん? ついてきてくれたの? 気を付けて……私、誰かに……) ぼやけた視界の端(はじ)で、ナミちゃんが私の身体を抱かかえ、運ぼうとしているのが見えた。 (……ありがとう……) そのとき、ナミちゃんのポケットから真っ黒な封筒が見えた。 直感的にその封筒に、閉ざされている私の記憶があると確信した。 遠ざかる意識の底で、封筒を手に取る。 (……今なら……私、ここに来る直前のこと……全部思い出せるかもしれない……) 真っ黒な封筒を開き、ここに来るまでの記憶を取り戻したら、下のボタンを押おそう 真っ黒な封筒の中身をすべて読み終わった