トンネルの先の料理屋にて エンディング 完成したのは、レモンがたっぷりのったケーキ。 クッキーの板にチョコレートのペンで「カカお誕生日おめでとう」と書かれたプレートが、ちょこんとのせられている。 それを男の子の前に置くと、彼は眉をひそめた。 「これはカカにあげるやつだから……。カカと約束したの……」 それでいい。 私は、男の子の目を見て言った。 「じゃあ、駅に戻ってみて。きっと、お姉ちゃんと会える」 そして、精一杯の言葉を贈おくる。 「いつもの場所に戻ったら、たくさん食べて。たくさん思い出を作って。幸せな食事は、おいしいかどうかだけじゃないから!」 男の子には理解できなかったかもしれない。 それでも、彼は店を出て、駅の方へ向かっていった。 時計は、もう動かなかった。 大きく息を吐いたとき、ナミちゃんの声がした。 「がんばったね」 ナミちゃんのその声は、あたたかく、なんだかなつかしかった。 「……ナミちゃん。これで、よかったのかな」 ナミちゃんは、やさしく笑う。 「……これが、よかったんだと思うよ」 *** しばらくして私はここでの記憶を思いかえした。 私はきっと、生と死のルールをくつがえすような行動をした。 それなりの罰ばつが与あたえられるのだろう。 でも、その覚悟なら、もうできている。 そんなとき、ナミちゃんが一通の報告書に目を通していた。 「おめでとう。君は解放だって」 あまりに急な宣告だった。 「……え?」 「ほら、これ見て」 ナミちゃんの手にあった報告書には、電車内で起きた大規模事件の真犯人が逮捕たいほされたこと、留置所内で自殺を図り、意識不明の重体であることが記されていた。 「真犯人……自殺の疑い……?」 「そう。あなたの容疑は晴れたみたい。ただし、ペナルティとしてあなたが戻した4人と同じ“元の世界”には戻れない。行けるのは、死の世界だけ」 そうか。 もともと、ここに来た時点で死ぬことは決まっていたのだ。 不思議と、心は穏やかだった。 生きることは、優しいようで、苦しい。 死ぬことは、怖いようで、優しい。 (私のせいじゃないって証明されたんだ。良かった…) 「何、食べたい?」 ナミちゃんが、やさしく問いかけてくる。 「暗号を解いたら、わかるんじゃないの?」 冗談まじりにそう言うと、彼女は首を横にふった。 「暗号じゃなくて。あなたの言葉で知りたい。あなたのことを、あなたの言葉で教えてほしい」 確かに、私とナミちゃんは、お互たがいのことをほとんど何も知らない。 でも彼女が優しい人だということ。 それだけは、知っている。 「えっと……私が、生きていたときはね……」 忘れかけていた“生きていた頃の私”を思いだそうとした、その瞬間。 勢いよく扉が開いた。 「ちょっと‼︎ 一体ここはどこなの‼︎ 死んだら天国に行くんじゃないの‼︎」 ……天国? この声、聞いたことがある。 そうだ。 電車内にいた、あの厄介な客だ。 なるほど。 こいつが、あの事件を引き起こした犯人だったのか。 「どうしたの? その手……」 ナミちゃんは、女の右手の傷に気づくと、すぐに奥から救急箱を持ってきた。 「うん、大丈夫。深くないね」 慣れた手つきで消毒し、包帯を巻いていく。 「本当に、ここはどこなのよ……‼︎」 いら立ちと混乱が、まだ収まっていない様子だった。 「私はナミ。ナミちゃんって呼んでね。で……」 包帯を結び終えたナミちゃんは、にこっと笑う。 「それじゃ、しばらくここで働いてもらうから、よろしくね!」 「……は?」 女が聞きかえす間もなく、ナミちゃんは続けた。 「自分がなんでここにいるのか、よくわかってないでしょ? そんな状態でふらふらしてるより、ここで働いてる方がいいじゃない」 「ちゃんとノルマもあるし、終わったら解放してあげるから」 私もそう付け加え、壁の一部がくぼんだ棚のような場所に飾られた小石が入った砂時計のようなものを指さす。 「この石が、全部下に落ちるまでがノルマ。でもね……」 ナミちゃんは、少しだけ真剣な顔になった。 「この砂時計、ひっくり返すと時間が巻きもどっちゃうの。せっかく達成した分も、最初からやり直し。だから、さわらないようにね」 女は、ひどく怯おびえた表情を浮かべる。 「やっと死ねたと思ったのに……‼︎ なんなのよ、ここは……‼︎」 私は、ここでさまざまな人生を見てきた。 簡単に死なせてもらえると思ったら、大間違いだ。 特に、「私が殺したのかもしれない」と思いながら、その人の人生を覗きこむ行為こういは、胸の奥がえぐられるほど苦しく、残酷ざんこくな罰だ。 私はナミちゃんの隣となりで、この女が“死ぬまで”どんな働きをするのかを見とどけることにした。 「あなたがここでどんな働きをして、どんなお客さんに出会うのか、そして、それをどう感じるのか、楽しみにしてる。」 私の言葉に、さらにとまどう女をよそに、ちりん、と再び扉の音が鳴る。 いつも通り、ナミちゃんの明るい声が店内に響く。 「いらっしゃい! お好きな席にどうぞ!」 ▲画像を保存してシェアしよう クリア画像、外封筒のみシェアOKです! おめでとう! 見事に「トンネルの先の料理屋にて」を解き明かした! 謎を解き明かしたことをシェアしよう! アンケートはこちら 「トンネルの先の料理屋にて」 ディレクター/謎制作:辻子観月 制作進行:和泉由香里 デザイン:北野由佳 校正:伊藤紘子 謎監修:大塚正美 「Mystery for You」 企画/制作:SCRAP プロデューサー:きださおり 田口正也 サービス運用:鈴木ひかる 與座日向葵 江坂果穂 広報:髙波由希帆 クオリティチェック:櫻庭史郎 パッケージデザイン:加藤咲 システム:株式会社メタップスペイメント エグゼクティブプロデューサー:飯田仁一郎 製作総指揮:加藤隆生