忘れ雪の君をさがして 秘密のカセットテープ chapter5
古いラジカセから、途切れ途切れの⾳が聞こえてくる。
それは紛れもなく、わたしの声だった。
『そばにいてくれてありがとう』
……そうだ。わたしは確かに、この⾔葉を残した。
たとえけんか中であったとしても、それまで2⼈で過ごした⽇々がなくなるわけではない。
あの⼦がそばにいてくれた⽇々は、わたしの中で間違いなく宝物だった。
部室に閉じ込められたとき、鏡の中のあの⼈たちが助けてくれて……
そばに誰かがいてくれることがこんなにも⼼強いことだったんだと、初めて知った。
あの⼈たちのおかげで、この気持ちに気付くことができたんだった。
救助のとき、ドタバタでこのカセットテープは渡せずじまいだったけれど……思い出話と⼀緒に、あの⼦に気持ちを伝えてもいいかもしれない。
鮮明によみがえった記憶とともに、わたしはカセットテープを取り出す。
──と。
取り出したカセットテープに、わたしは違和感を覚える。
カセットテープの裏⾯に、何かが書かれているのだ。汚れて⾒えないけど…「◾◾へ」?
あの⼦の名前だろうか。でも、当時の⾃分が書いた覚えはない。
むしろこの⽂字は……“あの⼦が書いた⽂字”に⾒える。
⼼臓の⿎動が早まった。
もしかして、あの⼦がこのカセットテープを聞いていて?
わたしに向けてのメッセージを残した?
だけどテープに、他の⾳声は……
いや。
わたしは思い出す。⻑らくカセットテープなんて使っていなかったから忘れていた。
カセットテープは、裏⾯にも別の⾳声を録ることができるんだ。
カセットテープのB面を再生しよう
「カセットテープの再生方法」のA面をB面に変え、B面の再生をしよう。
