クリスマスの夜に
キミは、前世って信じてる?
ぼくの名前はカムパネルラ。
薄暗い路地裏の一角にある、小さな事務所で過ごしている。
クリームと茶色の毛並みに長い自慢の尻尾。
少々とっつきにくいと言われているこの事務所の主人と違って、愛想が良いと評判だ。
気まぐれにやってくる依頼を受けながら、
主人である人間のジョバンニと一緒にゆったりとした日々を過ごしていた。
今日は1年に1度のクリスマス。
今年初めての雪が降る中、机で考え事をしながらうっかり眠ってしまったジョバンニの顔をぼんやりと見つめながらぼくはずっと、昔のことを思い出していた。
ぼくとジョバンニが初めて出会ったのは、黄昏時の様子がとても綺麗で有名な「トワイライトタウン」にある図書館。「英雄の旗」という本を同時に手にとったことがきっかけで意気投合し一緒に過ごすようになったぼくたちは、その中に描かれているきらびやかでどこか物悲しいサーカスに憧れて、いつか2人でサーカスを作ろうと夢を見るようになった。
15年前のクリスマスの夜にもらった「ノスタルジック・サーカス」の招待状。
ぼくはとっても嬉しくて、想い出を辿りながら謎を解いた。
初めて出会った図書館、お気に入りの洋菓子店やBAR、街外れの洋館に博物館。
雑貨屋では可愛いツリーのオブジェを作れて、嬉しかったな。
そして、「いつかサーカスを作ろう」と約束したこねこ灯台にたどり着いた。
ここは黄昏時、海が1番綺麗に見える場所。
ジョバンニ、キミと約束したあの日のことを思い浮かべながらコバルトブルーの海を眺めていた時、ドボン、という大きな音と叫び声が聞こえ、ぼくはとっさに海に向かって駆け出していた。
結局、キミが招待してくれた憧れのサーカスには、いけなかった。
ごめんね、キミを一人にして。
約束を、守れなくって。
猫になった今でも、クリスマスの夜は、夢を見るんだ。
ぼくとキミが、あの日別れたときのままの幼い少年の姿で、憧れのサーカスにいる夢。
これはきっと、クリスマスの夜にだけみることができる夢だね。
僕と、キミだけのノスタルジック・サーカス。
夢から覚めて静かに頬を濡らすジョバンニのもとに寄り添い、一緒に目を閉じる。
また次のクリスマスの夜に会えることを、夢みて。
……でもね、夢なんかじゃなくっても、ぼくはずっとそばにいるよ。
きっとぼくはまた、キミより先にいなくなってしまう。
それでも、ずっとそばにいるよ。
人間じゃなくなっても、
たとえ言葉が通じなくなっても、
何度、生まれ変わったとしても。
クリスマスの夜に カムパネルラの物語 END