Mystery for You 狐の嫁入り エンディング
あなたは折り紙の残りでかんざしを作った。紙のかんざしは、あなたの手のひらで本物のかんざしに変化した。
あなたは、そのかんざしに見覚えがあった。
花嫁行列のとき、ようこがじっと見つめていた姉の後ろ姿。その髪を束ねていたかんざしだ。
ようこも、すぐにそのことに気がついたようだ。
「花嫁行列のときにお姉ちゃんがしてたかんざし……。そうだ。あたし、このかんざしが欲しかったんだ。全部思い出したよ。あたしは好きな男の子がいて、お姉ちゃんの綺麗な花嫁姿に憧れてたんだ……」。
ようこはあなたから受け取ったかんざしをじっと見つめた。
「そっか。大人になりたかったんだね。あたし」
ようこは長い髪を束ね、かんざしを刺した。すると、ようこの姿が透けはじめた。
「ありがとう。あたし、極楽に向かえるよ。自分は大人になりたかったんだってことさえわかれば、未練は断ち切ることができるから。それから、もうひとつ思い出せたよ。美雨姉ちゃんがあたしに口紅を塗ってくれたとき、教えてくれたの」
ようこの体から淡い光の粒が浮かび、音もなく弾けていく。一粒一粒弾けるごとに、ようこの姿は透き通っていく。
「『ようこってね、漢字で陽子って書くんだよ。太陽の子って意味だよ』って」
陽子は狐の面を外し、笑った。まだ8歳の無邪気な笑顔だった。
「さようなら。ありがとう……。あなたのおかげで、大好きなお姉ちゃんやハジメに会いに行けるよ」
その笑顔は太陽に照らされて輝き、けぶる雨に包まれて消えていった。
あなたは、いつの間にか足元に落としていた古本を拾い上げ、はっと気づいた。
古本の見返しに、色鉛筆で絵が描いてある。
盆踊りをしている人々を遠くから眺めた絵だ。
隅に「遠い日の記憶 令和元年 病室にて」とある。
ページを押さえていた指をずらすと、最後に震えた筆跡で「肇」と書かれていた。
ふと見上げると、空には虹が現れていた。雨と太陽をつなぐ橋のように。
その橋を、狐のお面をつけた花嫁姿の少女がゆっくりと渡っていく。
しとしとと降り続ける優しい雨の中、その髪に刺したかんざしは、陽光を照りかえしてキラキラと輝いていた。