Mystery for You 十五夜タイムトラベル エンディング
「いいんだ。僕は君を助けるために来たんだから」
正直、叫び出したいくらいに心の中はかき乱されていた。どうしてこんなことになってしまったのだろう。
「……私の手帳、見たんだよね? ロッカー開けて」
「え? ああ。なんだよ急に」
まさかこのタイミングでロッカーを勝手に開けたことを指摘されるとは。僕は面食らった。
「じゃあスケジュール帳の9月30日に『最後のチャンス』って書いてあったの見たでしょ?」
「ああ」
「本当は、ムトーを止めた後、お月見に駆けつけたかった。ムトーを止められたら、そのあと、あなたに気持ちを伝える『最後のチャンス』が待ってるって」
僕は手をかざして小夜子の発言をさえぎった。これ以上聞いたら、過去に向かう決心がくじけてしまうかもしれない。時間はない。とまどえば手遅れになる。
「さあ、もう行って。もうすぐお月見の集合時間だ。みんなに見つかったら未来が変わっちゃう」
月明かりに照らされた小夜子は残酷なほどきれいだった。
「『おわかれ』だね」
僕は声を振り絞って言った。ブレスレットが光りを放ち始める。小夜子は僕を見つめながら、ゆっくりと後ずさりをして木陰に姿を隠した。
そのとき、森の道を誰かが歩いてやってきた。僕だ。
そうか、あのとき見たのはこのシーンだったんだ。僕の目の前で消滅したのは僕自身だったのか……。
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僕は、木陰からその光景を見守る小夜子に声をかけた。
「やっと会えた」
驚いた小夜子の瞳を、僕は約30年ぶりに見た。
1991年に行った僕は「ムトー」のイタリア行きを阻止した。そしてそのままこの町で生活し、2020年の9月30日を迎えた。
細菌兵器は作られなかったはずだ。兵器の散布は免れるだろう。
僕たちは静かな町を見下ろしながら、2冊の月の本を燃やした。図書室にある3冊目もあとで燃やしに行こう。これでこの平和な世界線を定着させることができるのだ。
明日、僕は行方不明になる。折を見て、父さんや母さんに会いに行こうと思う。彼らは、自分たちより少し年上になった僕を息子として迎え入れてくれるだろうか?
きっとわかってくれる。そんな気がした。
「どうしてここに来てくれたの?」
炎を見つめながら、小夜子が僕に尋ねた。
僕がここに来た理由。今からたった3時間前に、言えなかった言葉。29年と5ヶ月の時を経て、やっと君に伝えられる。
「ずっと昔から思ってたんだ。『もし今夜、裏山の高台で小夜子と2人きりになれたら。この想いを伝えることができたら』……」
十五夜タイムトラベル 完