きっとこれは外にあった看板を示しているんだ！ あなた達は外へ出るとぐるりと回り、すくら湯の裏手の壁へと向かった。

あたりはすっかり暗くなっていた。
鍵を壁の穴にはめるとピタッとハマり、鍵を回すとともに、何かが崩れる低く大きな音が鳴り響いた。
音がやむと、その場に1枚の手紙が落ちてきた。

ーーー
ここにたどり着いた者へ

すくら湯の秘密を見つけてくれてありがとう。
この手紙を読んでくれている頃には、私はこの世にいないだろう。
しかし、この日を心待ちにしていた。

なぜ、こんなに大掛かりな仕掛けを用意したのか話していこう。

私の妻はアメリカ人の画家だったんだ。当時としては珍しい国際結婚だったんだよ。
そして1922年にオープンさせたすくら湯の壁に、その妻がとても素晴らしい絵を残してくれたんだ。

今でも鮮明に思い出せるほど、本当に幸せな日々だった。

しかし戦争が始まると妻の描いた絵は、戦時下の状況でどんどんと失われていってしまい、ついに残るはこの壁絵だけになってしまったんだ。外国人の、しかもアメリカ人の妻ということで世間の目は厳しかった…。生きるのも精いっぱいだったが、私はどうにかしてこの絵を残したかった。

そこで思いついたんだ、上手に隠す方法を。

私はこのすくら湯をたくさんの人に助けてもらって運営してきた。きっと未来でもそうだろう。そして、この銭湯を愛する人たちが力を合わせたら解けるだろうと、謎を仕掛けてもらったんだ。

これを見つけている頃には、時代が変わっているだろう。
今ならきっとたくさんの人がこの絵を楽しんでくれると思うんだ。

どうだったかね？
早く、浴室を見に行ってごらん。

支配人より
ーーー

曾祖母のことを一切知らなかった支配人はかなりおどろいていた。

浴室内に入ると、さっきまで目にしていた壁が崩れ落ちて、そこには壁一面に隠されていたキラキラとまぶしい壁絵が広がっていた。
デザインは、太陽の手前で羽ばたく鳩。そして地上で仲良く過ごしている家族が描かれていた。

壁絵にはサインが書かれており、聞き覚えのある名前だった。その画家による幻の作品がどこかに隠されているという噂を聞いたことがあったが、まさか本当だったとは。

その後あなたのブログで取り上げたこともあり、すくら湯には絵画を一目観ようと連日多くの客が集まるようになった。
廃業の危機だったとは思えないほど、繁盛する店となったのだ。

支配人があなたを見て嬉しそうに話しかけてきた。
「一緒に宝を見つけてくれて、本当にありがとうございます。
たくさんのお客さんがすくら湯を楽しんでくれて本当にうれしいです。
皆さんにサウナや温泉の良さをもっと知っていただきたいです！」

あなたも家の近くにある銭湯に行ってあげてくださいね。

END

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