大人気「クトゥルフ脱出」シリーズの第2弾『混沌這い寄る教団からの脱出』が10月29日から公演開始となりました。
開始日前日の28日に開催された体験会の終了後には、今作の公式アンバサダーであり、作中で「祭司」の声を演じた佐野史郎さんへの単独インタビュー、そして同じく公式アンバサダーであり、案内人役として声の出演をしたTRPGシナリオライター・ディズムさんと、佐野さんによるスペシャル対談が行われました。
本記事ではインタビュー&対談の模様をお届け。「クトゥルフ神話」に造詣が深いアンバサダーのお2人に『混沌這い寄る教団からの脱出』の魅力をたっぷり語っていただきました。

公式アンバサダー兼「祭司」役の佐野史郎さん特別インタビュー
10代の頃から「クトゥルフ神話」の世界に傾倒してきた佐野さん。
「俳優を続けてきてよかった」と喜ぶ「祭司」役の舞台裏や、長年にわたって自身の心を掴んで離さない「クトゥルフ神話」の魅力とは……。

ーー今回実際にゲームをプレイしていただきました。難しかったですか?
佐野
難しかった(笑)
第1弾の『狂気の山脈からの脱出』も体験させてもらっていたので、難しいだろうなとは予測していましたが……70代のおじいさんには頭の回転がね〜。
ただいろんなヒントもあったので、楽しむことができました。
ーー体験会の様子はいかがでしたか?
佐野
『狂気の山脈からの脱出』は4人1組でテントの中に入って邪神と向き合いましたが、今回は大勢で一斉に邪神に立ち向かう一体感があって、格別でしたね。

ーー佐野さんには今回「祭司」の声を演じていただきました。
佐野
おそらく近年の仕事の中で1番気合が入った仕事かもしれません。これを言うと朝ドラのチームに怒られるかも(笑)もちろんそっちも一生懸命やってますよ!
ただ正直、今回の仕事は「下手なことはできない」と収録ブースの中で全身全霊取り組みました。芝居というか、もう”マジ”でしたね。
ーー参加者がいっせいに「いあ!いあ!」と唱えている状況をご覧になって、いかがでしたか?
佐野
感無量!俳優を続けてきてよかったな、と思いました。
ーー佐野さんはかなり昔から「クトゥルフ神話」がお好きだとうかがっています。
佐野
第一世代、と言ってもいいんじゃないかなと思います。
僕が「クトゥルフ神話」の生みの親とされるH.P.ラブクラフトを知ったのは、1970年代の頭ごろです。当時刊行されていた『幻想と怪奇』という雑誌の中で、荒俣宏さんが翻訳したラブクラフト作品を読んだのが始まりです。当時、ラブクラフトは本当に「知る人ぞ知る」という存在でした。
出版物も少ないので、神田の古本屋街を探し歩いて、ラブクラフト作品を見つけると本当に嬉しかったです。

ーーもともとそういう怪奇文学、幻想文学が好きだった?
佐野
そうですね。「ドラキュラ」や「フランケンシュタイン」などの延長です。
ラブクラフト作品は平井呈一さんや、弟子である荒俣宏さんの翻訳で少しずつ広まっていきましたが、1970年代だとまだまだマニアックな人たちのものでした。
変わったのは、1980年代半ばにTRPGになってからですね。僕はTRPGというもの自体を知らず、お店で『クトゥルフの呼び声』と書いてあるのを見て「なんじゃこれ」と思って買いました。
家に帰ったらシナリオとダイスが入っているだけ。キャラクターシートを作るのにダイスを振って、アナログ感満載でしたけど楽しくて。
90年代以降はラノベが出てきて、アニメになったりしてあっという間に広まっていきました。原点のラブクラフト作品を読んだことがなくても、若い世代の方はほかのメディアやコンテンツを通じて「クトゥルフ神話」というジャンルで楽しんでいるようですね。
ーーさまざまな媒体を通じて「クトゥルフ神話」が広がっていくことをどう受け止めていますか?
佐野
あまりにも本家を飛び越えて広まっていくのは嬉しい反面、当初は「原点の小説にも触れてほしいな」と複雑な気持ちもありました。
ですがここまで広がっていることを思うと、ゲームの力ってのは改めて大きかったんだなと。
リアル脱出ゲームやTRPGのように自身で”体験”することができるゲームは、実際に動く、みんなと同じ空間にいる、という点で臨場感が一段階上のような気がしています。「クトゥルフ神話」の世界というのはリアル脱出ゲームやTRPGと親和性がある。なのでこれからもまだまだ、「クトゥルフ脱出」のシリーズを続けていってほしいです。
10代の頃からのファンとしては、次世代に伝えていきたいという思いが年々強くなってきていますから。
ーー佐野さんの考える「クトゥルフ神話」の魅力はなんでしょうか?
佐野
「クトゥルフ神話」の邪神というのは、人類史を遡って遡っていったところにある、一番古い神のようなもの。
空想も現実も越えて、僕らの一番深いところにいる存在なのではないかと、個人的には思っています。根源的な恐怖を感じられる、というのが魅力ですね。
また、背景となる世界がアメリカともヨーロッパともつかない、現代なのか未来なのか中世なのかもわからない。「いつでもない、いつか。どこでもない、どこか」というのが、「クトゥルフ神話」が世代を超えて人気を集める一番大事なところじゃないかなと。

ーー「クトゥルフ神話」は、何から入るのがオススメですか?
佐野
やはり「クトゥルフ神話」の原点とされている、ラブクラフトの小説『クトゥルフの呼び声』、それから『ダンウィッチの怪』。90年代に日本でドラマ化された『インスマスを覆う影』ですね。そういった代表作をぜひ読んでいただきたいです。
ーー「リアル脱出ゲーム」のような、参加者自身が主人公になる体験型作品については、どうとらえていますか?
佐野
僕自身はこれまであまり体験してきませんでしたが、意外と歴史は長いですよね。そうした中で人々が惹きつけられる要素が成熟していったというイメージがあるので、初めて遊ぶ方にはリアル脱出ゲームはハードルが高いと感じますね。
ですが、1度脱出ゲーム的な思考回路を体得すると、楽しみやすくなるかなと。
ーー教団の「祭司」として、あるいは「クトゥルフ神話」ファンの大先輩として、これから公演に参加する皆様へのメッセージをお願いします。
佐野
リアル脱出ゲームの公演を通して、あるいは「クトゥルフ神話」を題材としたゲームを通して、邪神たちの世界を体感する喜びや恐怖を味わって欲しいと思います。そこから学び取れることは、現実生活に役立つことも多いんじゃないかなと思います。
これからどんどん「クトゥルフ神話」と「リアル脱出ゲーム」を愛する人が増えていって欲しいなと。
ただ、くれぐれも取り込まれないように。

俳優・佐野史郎×TRPGシナリオライター・ディズムSP対談
ともに「クトゥルフ神話」に造詣が深いお2人が世界観の魅力や、関連するエピソードなどを存分に語ってくれています。
「佐野さん、絶対“信者”やってたでしょ」と冗談をもらしたディズムさんに、佐野さんからまさかの返答が。さらにディズムさんが思わず「ラブクラフトの小説にありそうな話」と驚いた、佐野さんの奇妙な体験とは……?

ディズム
佐野さんは『混沌這い寄る教団からの脱出』は体験されたんですか?
佐野
しました。ダメでした。脱出できませんでした(笑)
ディズム
僕もダメでした!アンバサダーなのに!(笑)
ただ令和の時代に「クトゥルフ神話」の儀式をどう進めるか、となったときに「闇バイト」が出てくるのは現実感があるなと思いました。
佐野
ありそうですよね。しかも会場は新宿・歌舞伎町にある。
ディズム
木を隠すなら森の中、みたいな。

ーー今回の脱出ゲームの公式アンバサダーのオファーを受けた際の、お2人の率直な感想をお聞かせ下さい。
佐野
映画やドラマと同じように“もう1つの現実”に人々を連れていく新たなメディアとして、リアル脱出ゲームはいち俳優としてやりがいのあるジャンルだな、と。
引き合わせていただいたことに感謝しましたし、なかでも「クトゥルフ神話」がテーマとあって喜びを隠せませんでした。
ディズム
大変光栄でした。
ただ脱出ゲームや謎解きはまったくもって苦手なので、「自分で大丈夫なのか」という感想が最初に来ましたが、「クトゥルフ神話」にまつわるシナリオを書いている先に、このような機会があったというのは、続けてきてよかったなと感じました。
佐野
今回の作品で遊んで感じたのは「シナリオありきだな」ということですね。
シナリオの上で生きる俳優としては、しっかりとしたシナリオがあるという強さを、あらためてゲームの世界で演じてみて感じました。今回の作品は映画とか、違うメディアでも見てみたいな、と。
ディズム
佐野さんのおっしゃった「脚本があるから俳優が生きる」というのは逆のことも言えると思います。脚本があっても俳優さんがいなければろくに伝えられないというか。
佐野
ああ!うんうん。
俳優によって違う世界になったりしますからね。
ディズム
そういう意味で、メディアを超えてシナリオや俳優に限らず、それぞれの特徴を上手く組み合わせることができたら、今までにない面白いものができるんじゃないかなという気がしてますね。
ーーディズムさんが創作をする中で、嬉しいと感じるのはどんな瞬間ですか?
ディズム
ゲームであれば、体験した方が「どうだった?」「自分はこうだった!」というふうにそれぞれのものとして持ち帰ってくれる瞬間ですかね。
映画や小説など何でもいいんですけど、その人の中に生まれた世界が広がっていく瞬間というようなものが僕は素晴らしいと思っています。
ゲームは特に本当にその人ならではのものとして、自分がいち参加者としてその場にいる感覚を味わえるというか。TRPGやリアル脱出ゲームのようなアナログなものであれば、なお一層臨場感、没入感が高い状態で体験できるんじゃないかと思っています。
その人のものになった瞬間が訪れる、というのが一番創作をしていて嬉しいことですね。
ーー佐野さんもカメラや文章など、創作活動をされていますよね。
佐野
そうでしたそうでした(笑)
自分から率先してそういう才覚があるとは言えないですが、場を与えられたら「どういうものが作れるかな」ということはいつも思います。
俳優であれ、写真であれ、執筆であれ、使うのは同じ身体なので。ジャンルを超えて、使っている神経は同じかもしれないですね。
ディズム
佐野さんは今回「祭司」として声の出演をされてますが、僕はゲーム中「佐野さん絶対信者やってたでしょ」と思いながら聞いてました。
佐野
まあ、そう、僕も若い頃はね……。
ディズム
否定しないんだ(笑)
佐野
若い頃は師匠である唐十郎の、「状況劇場」というカルト劇団にいたんでね(笑)そういう感覚は他の人よりあるのかもしれない。
いわゆる一般社会とは別の、自分たちが信じる美意識や価値観があって。世の中の方がおかしくて、自分たちの方が正直な視線を持ってるんじゃないかということを、師匠からずいぶん教わったので。そういうものの見方は根っこにあるかな。
クトゥルフの呪文を唱えるときも別に嘘をついているわけではなく、本当に「世の中を変えることができたら」と思いながらやってたと思いますよ。

ディズム
じゃなきゃ、あの発音はできないと思います。「ない」ものを「ある」と思わせる力というか。
佐野
人って最初は童話とか絵本からファンタジーの世界に触れるじゃないですか。
特に幼少期は現実とファンタジーの区別がつかない。イマジナリーフレンドみたいなものがいたことはないけど、アンデルセンでも江戸川乱歩でも、読んでる間は本当のことだと思ってるんです。
乱歩の「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」の言葉じゃないですけど、みんなが本当だと思ってることが実は違うんじゃないか、というものの見方が幼少期から変わらずにあるので、それは俳優の仕事に活きてると思います。
特に「クトゥルフ神話」のようなファンタジーを、完全な嘘だと思っていないことは事実です。
ディズム
「クトゥルフ神話」の脱出ゲームで佐野さんを「祭司」にしたのは、SCRAPさんの英断ですね。
ーー今回の公演で、お2人が特に「ここにクトゥルフらしさが出てる!」と感じたところはありますか?
佐野
どのチェックポイントもヤバかったけどね(笑)
ディズム
ですね(笑)
スタート地点の祭壇が、あとで真相を知ったら一番ヤバかったです。
佐野
僕は資料室がね、イヤだったねえ……
ディズム
「クトゥルフ神話」の得体のしれなさ、作中で「名状しがたき」などと言われる不気味さは、「闇バイトから始まる」という点に一番感じました。令和の「クトゥルフ神話」という気がしました。
佐野
そうですよねえ(笑)いいですよねえ(笑)
僕はキャストの皆さんのレベルが高いというか、皆さんが本気でやっていらっしゃるのが魅力だと感じました。
この空間を本当だと思わせないと参加者に引かれちゃう。だからキャストの皆さんは責任重大だと思います。公演終了まで大変なことだと思いますけど、たくさん“信者”を獲得していってほしいですね。僕も演じているうちの1人ではありますけど。
ディズム
再三になりますけど、佐野さんが演じる「祭司」の「いあ!」は発音できないんですよ。
TRPGのシナリオを書いていると、「いあ! いあ!にゃるらとほてぷ云々」といった呪文はよくでてきますが、読み上げるとなったら、佐野さんのようには発音できなくて。
だからそれは佐野さんの「本当のこととして思う」というところから来ているんだなと。
佐野
信じてるかどうかですよ。
ディズム
信じきれてないのかもしれない(笑)

佐野
昔、ドラマ『インスマスを覆う影』の撮影で訪れたロケ先に、古い何かの祭壇があったんです。
ディズム
元からですか?
佐野
元からあった。
美術さんはそれを作品に活用したんだけど、僕はそのとき「クトゥルフ神話」の魔導書である「ネクロノミコン」をコピーして綴じた私家版の本を持ってて
ディズム
「ネクロノミコン」を持ってたんですか(笑)
佐野
「ネクロノミコン」にある邪神召喚の文字や図形を美術さんに見せて「これ描いて下さい」ってお願いした。そしたら直後に暴風雨になった。2〜3時間すごい雨が降って、撮影中止で。
その美術さんと7年後にとあるスタジオでお会いして、当時の暴風雨のことを話してたら、翌日にそのロケ先の反対側の湾のところで水死体が上がったと。ゾッとしました。
ディズム
ラブクラフトの小説にありそうな話ですね(笑)
佐野
フィクションや想像はそれくらいの力を持つので、真剣に取り組まないと大変なことになるな、といつも思ってます。
ーーこれから教団の狂気に立ち向かう参加者の方々にメッセージをお願いします。
ディズム
自分が正気なのか狂気なのか分からないなか、いずれにせよ前のめりの方が楽しめると思います。なのでどんどん前に前に、地面に埋もれるくらい前に進んで楽しんでもらえたらなと思います。
佐野
初めての方も経験のある方も、気楽にYummyバイトに来ていただきたいです。
最初の10分、20分ぐらいが勝負ですかね。そこで焦ったりパニックになると餌食になってしまうので、わからなくても焦らず、報酬を受け取れるようお越しいただければなと。
絶対楽しいと思います。

文:ヨシクラミク



