【寄稿】そこに写っているのは、熱海の風景……なのに、何か変。

『ミステリー写真集人が消える街』体験レポート

公開日：2023/12/15

こんにちは、SCRAPマガジンライターの飛田恵美子です。

SCRAPが2023年9月に発売した『ミステリー写真集人が消える街』をご存知ですか？　写真集を使った新しい形のミステリーゲームで、発売後すぐに重版が決定した話題作です。ストーリーは次のとおり。

熱海の風景を写した写真集をもとに、ネット掲示板を使って考察していく……一体どんな仕掛けなのでしょうか。謎解き初心者の友人を誘って2人で挑戦してみることにしました。その体験レポートを「ネタバレなし」でお届けします！

※謎やストーリーの重大なネタバレはありませんが、購入を迷っている方の参考になるよう、ゲームの進め方や雰囲気は説明しています。「事前情報を一切入れずにプレイしたい！」という方は、いますぐSCRAP GOODS SHOPや全国の書店でご購入ください。
https://www.scrapmagazine.com/s/mystery_photobook/

実際の熱海の風景に不審なものが紛れている怖さ

『ミステリー写真集人が消える街』は、ネット環境さえあればいつでもどこでもプレイできる謎解きキットです。赤が印象的に使われた表紙をめくると、その下から『熱海写真集うたかた』が現れました。帯には“「熱海の真実」がここにーー”という文字。さらに、ポップなデザインの「クイズキャンペーン」チラシも挟まっています。

「まずは普通の写真集として楽しんでください」とのことなので、『うたかた』のページをめくっていきましょう。パラパラ……。

あれ、普通に綺麗な熱海の風景写真です。海があって山があって、商店街は賑わっているし民宿の料理は美味しそう。いいなぁ熱海、行きたくなっちゃうなぁ……。

……と呑気に眺めていたのも束の間、少しずつ違和感が生じてきました。最初の数ページに写っていたモデルさんは途中からまったく出てこなくなり、代わりに不自然な様子の人が目につきます。お店の前に妙なものが置かれていたり、「え、これって……？」と訝しむ1枚があったり……現実の風景の中に紛れている分、じわじわとした奇妙な怖さがあります。

写真集に一通り目を通したら、クイズキャンペーンのチラシをチェック。このキャンペーンの特賞は、「編集長＜海原なつみ＞とビデオ通話できる権」とのこと。チラシ下部の二次元コードをスマホで読み取るとキャンペーンサイトが現れ、さらにその上から写真集を購入した「私」のストーリーが表示されました。

キャンペーンサイトに目を通した「私」は、学生時代から入り浸っているネット掲示板「噂ちゃんねる」にアクセスします。そこにはすでにこの写真集のスレッドが立っていました。

スレッドを開くと、どんどん書き込みが増えていきます。この雰囲気やノリ、懐かしい……！　

どうやらこのゲームは、ネット掲示板内で他ユーザーが教えてくれるホームページやニュースサイト（※架空のページ）から、謎を解くために必要な情報を集めて進めていくようです。一度アクセスしたページの情報は画面右上の「ブックマーク」に保存され、後から振り返ることも可能。スレッドの流れに沿って推理していくので、謎解き初心者でも「何をどうしたらいいんだっけ？」と迷子になることがありません。システムがよくできているなぁ。

どうしてもわからないときはヒントを見ることもできます。ちなみに、ヒントを出してくれるのは可愛いイルカ。古のインターネットユーザーの懐古心がくすぐられる……。

序盤は写真集の中から答えを探すような作業が多くサクサク進みますが、次第にこれまで出てきた情報を元に推理することが増えていきます。複雑に入り組んだ事件が徐々に明らかになり、ゾワッとする場面も。サスペンスドラマの一員になった気分です。掲示板のスレ民とやりとりしながらストーリーが進行していくので、『電車男』のミステリ版と言ってもいいかもしれません（※『電車男』を知らない若い世代のために補足すると、ネット掲示板への書き込みから発祥し、小説や映画、テレビドラマになったラブストーリーです）。

要所要所でスマホや写真集ならではのギミックも仕掛けられていて、思わず「おお〜！」と歓声を上げてしまいました。まさかアレをああしてこうするとは……！　

謎解き初心者の友人と、謎解きは何度も挑戦しているけどポンコツの私の2人でしたが、なんとかヒントを見ずに「熱海の真実」にたどり着くことができました。かかった時間は約100分。キットには「想定プレイ時間：90分〜120分」と書かれているので、まあまあといったところでしょうか。不穏な物語の世界に没入した100分間でした。

写真集はたっぷり80ページ。見応えがありました。

『ミステリー写真集人が消える街』、クリアしたけど何か質問ある？

ゲームをクリアしたひとりとして、ここからは『ミステリー写真集人が消える街』に挑戦しようか迷っている人が抱きそうな疑問に答えていきたいと思います。

・謎解き初心者でも大丈夫？
→時間制限なし、ヒントありなので初心者でも楽しめます。途中でも書きましたが、流れがわかりやすいし序盤は写真集をよく見ればわかる謎が多いので、「最初から難しくて心が折れてしまった」ということにはならないはず。友人は謎解きが初めてと言っていたのに「これがこうだったから答えはこれだね」と素早く推理していて、「こいつ……謎解きの素質がある……！」と思いました。初心者の友人を謎解き沼に落としたいときにもぴったりです。

・ということは、謎解きが得意だと物足りない？
→いえいえ！パズルのような謎解きはありませんが、情報を元に推理する楽しさがありますし、ひらめきが必要な場面もあります。腕に自信のある方は、「どれだけ早く解けるか」に挑戦してみるのも楽しいのではないでしょうか。

・3人以上でも楽しめる？
→写真集に謎や答えが隠されているので、一緒に覗き込んだり交代で手に取ったりすることもあり、3人以上だと、ちょっと共有しづらくなってくるかもしれません。ただ、ゲーム専用サイトにはひとつの端末からアクセスしても別々の端末でアクセスしても大丈夫です。私たちはそれぞれの端末でアクセスしたので、行き詰まったときにそれぞれ掲示板やブックマークの情報を遡ってじっくり推理できました。

・怖い？
→ホラーやグロテスクな表現、脅かすような演出はありません。日常風景の中に紛れ込む違和感、といったじわ〜っとした怖さはありますが……ミステリ小説やサスペンスドラマが好きな人にはたまらないのでは。

・実際のネット掲示板を使うの？
→この謎解きキットのために作られた架空の掲示板の画面が表示されます。実際のネット掲示板にアクセスしたり書き込んだりするわけではないのでご安心を。

・写真集には実際の熱海の名所やお店が映っているの？
→そうです！もちろん一部架空のものもありますが、登場するお店や観光スポットはほぼ実在します。クリアした後に検索するとちゃんとサイトが出てきて、「うわ〜料理が美味しそう！」「ここでのんびり海を眺めたい……」と旅情をかきたてられました。不吉な事件の現場として実名で登場してくれるなんて、熱海の人は度量が広いなぁ。写真集を片手に聖地巡礼したい！